国民民主党の減税策(103万円の壁対策)を与党は修正のうえ受け入れるか
国民民主党は先般の衆院選挙で、103万円の壁への対策として、基礎控除等を現状の103万円(基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計)から178万円に拡大する減税案を掲げた。与党が政権維持のために国民民主党に協力を仰ぐ際には、その交換条件として、ガソリン税のトリガー条件凍結解除に加えて、この減税策を受け入れる可能性があるだろう(コラム「与党との連携が視野に入る国民民主党の経済政策を再度確認:与党は基礎控除引き上げ、トリガー条項凍結解除を受け入れるか?」、2024年10月29日)。 国民民主党の玉木代表がXに投稿した試算によると、所得税と住民税を合わせて、年収200万円の人は8.6万円、年収600万円の人は15.2万円の減税になるという。また玉木氏は29日のテレビ番組で、「年末の税制改正の課題になってくる。11月の半ばまでに方向性を見いだしたい」と述べ、与党側に働きかける意欲を見せた。 朝日新聞は、国民民主党の減税案だと、年間35兆円程度の所得税と住民税の税収のうち、8兆円規模の税収が失われる可能性があるとしている。 一方筆者は、103万円から178万円に拡大する減税策によって1,030億円程度の減税効果が生じ、また217億円程度の景気浮揚効果が生じると試算した(コラム「国民民主党の基礎控除等拡大策(年収の壁対策):1,030億円程度の減税規模で217億円程度の景気浮揚効果か」、2024年10月30日)。 これは、同減税案の狙いが、低所得の税負担軽減と働き控えの緩和による労働供給の促進にあると理解し、年収178万円以下の低所得層にのみ基礎控除と給与所得控除の178万円への引き上げ(課税最低所得水準の引き上げ)が実施された場合の試算を行ったものである。この設計であれば、財政負担が小さい一方、年収の壁対策と低所得者支援になるため、政策としては比較的妥当ではないか。 しかし、上記の玉木氏の説明では、基礎控除等を一律引き上げる案を想定しているように見える。朝日新聞の8兆円規模の税収という試算も、それを前提にしているのだろう。この場合、財政への悪影響が非常に大きくなる一方、1年間のGDP押し上げ効果は+0.28%(1.68兆円)と大きめとなる(内閣府、「短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)」による)。 こうした形で基礎控除等の拡大が実施された場合、低所得者層の労働供給を促し、人手不足対策にはなるものの、他方で、税率が高い高額所得者により大きな減税の恩恵が及ぶ形となり、低所得層支援、格差対策の観点からは問題がある。さらに、大きな税収減となってしまう点も問題だ。 こうした問題点を踏まえると、与党は国民民主党の減税案を受け入れるとしても、そのまま丸呑みすることはないだろう。より低所得者の支援策の色彩を強め、かつ財政負担が小さくなる方向で修正する協議を国民民主党と行うのではないか。 また103万円の壁を緩和しても、130万円の壁などが残ることから、抜本的な年金改革の見直しなども合わせて議論されるべきだ(コラム「与党との連携が視野に入る国民民主党の経済政策を再度確認:与党は基礎控除引き上げ、トリガー条項凍結解除を受け入れるか?」、2024年10月29日)。 (参考資料) 「(政界変動)国民の「手取り増」、高いハードル 大規模な所得減税、実現なら税収8兆円減」、2024年10月30日、朝日新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英