東京・中央区が森林をつくる? 何が目的なのか
東京の中心部に位置し、銀座や日本橋、築地、月島など、繁華街や高層ビルが立ち並ぶ中央区。この中央区で意外な取り組みが行われています。森林の管理と保全です。浜離宮恩賜庭園こそあるものの、それ以外は広大な公園も森もない中央区が、何のために、どうやって森林を保全しようとしているのでしょうか。その背景には「山林の荒廃」という、“森林大国”日本が抱える課題がありました。
2006年から多摩に「中央区の森」事業
記録的な寒波が日本列島を襲い、各地で大雪や厳しい冷え込みをもたらしましたが、暦の上では間もなく立春を迎えます。季節が春めくと心がウキウキする一方で、花粉症に悩まされる人もいます。花粉症の原因植物は地域によっても異なりますが、患者がもっとも多いと言われるのが、スギ花粉です。とくに首都圏におけるスギ花粉の被害は深刻で、石原慎太郎都知事(当時)が指示して、行政が乗り出すまでになっています。
東京都に飛散するスギ花粉の大部分は、多摩地域の山林に植生するスギだと言われています。昭和20~30年代、住宅建材が不足したことから、多摩の山林にはスギが大量に植樹されました。40年代に入ると、海外から安い木材が輸入されるようになります。割高の国産材は売れなくなり、国内の林業は衰退。日本の山では森林が放置されたのです。 多摩の山林も例外ではありません。住宅用建材用に植えられたスギは野放しにされました。後継者不足なども重なって、多摩の山林は荒れ放題になりました。 昨今、自然環境を重視する風潮が強くなり、山林を再生・保全しようという動きも出てきています。東京都中央区は2006(平成18)年から「中央区の森」事業に着手し、多摩の山林を管理・保全しているのです。
ヒートアイランドとCO2対策で緑化推進
「当時、東京都心部ではヒートアイランドが問題になっていました。また、中央区から排出されるCO2は2004年度の時点で198万トンと多く、その2つを同時に解消する手段として緑化を推進することにしたのです。しかし、中央区内は高層ビルが立ち並び、広大な公園などもありません。また、ビルの屋上を緑化しても大幅に緑を増やすことができません。そこで、中央区は多摩地区の荒れた森林の再生をお手伝いすることで、環境問題に貢献する方針を打ち出したのです」(中央区環境土木部)