「103万円の壁」が浮き彫りにしたもっと大きな問題、日本は高福祉高負担と低福祉低負担のどちらを目指すのか
所得控除を103万円から178万円に引き上げることを強く主張している国民民主党だが、税収減を補う財源が明確でないなど問題も指摘されている。果たして「103万円の壁」はどう決着するのか、国債増発で若者世代の将来負担とするのか──。山本一郎氏の論考(後編)。 【図表】103万円、106万円、130万円といろいろな壁があるが、本当の壁はこの壁 (山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員) 話を戻すと、以前記事でも書きましたように、178万円をひとつのハードルとするのは国民民主党がそう言っているからであって、別にそれに大きな根拠はありません。 同様に、自由民主党が税制大綱に盛り込むぞと言っている120万円相当も、公明党が言っている150万円がメドという発言も、どれもたいした根拠はないのです。目分量というか、まあ折衷案だろぐらいの話だろうと思います。なんか根拠があるぞって話があるなら出してきてください、精査しますんで。 最近になって、30年前の最低賃金と比べていまは6割引き上げられたので給与所得控除と基礎控除の合計も103万円から178万円にすべきだという雑な話がありますが、そもそも所得控除の元になる所得税法においては逐条解説のどこを見ても「最低賃金をベースに103万円の控除にしました」なんてことは書いてありません。 そもそも、控除の成り立ちとして基礎控除と給与所得控除とでは前提が違うのです。生存権も無関係で、実際には戦後の世帯所得のベースが「夫は大黒柱としてサラリーマンとして働き収入がある」と「妻は専業主婦として家庭に入り子どもを育てる」という家庭観から、働かない奥さんと子どもを『扶養家族』とし、課税対象の収入から一定の金額を『控除』して家計への負担を下げ、これらを3号被保険者とするという昭和時代の制度設計に原因があります。 なので、いまや世界に冠たる共働き国家となった日本で世帯収入にどう徴税をすれば合理的で公平なのか、というのが大元の税制の議論であるべきなのです。 単純に、制度設計上「まあ、控除額はこのぐらいじゃね?」という当時の財務省からのちに国税庁長官に就任された小川是さんが残したメモ(古文書)が発掘された程度で、なんとなくこんなもんでしょうという話でしかないのです、たぶん。 ……で、一番困っているのは立憲民主党なのかなと思っています、政策を考えるうえで、各党が出している各党の103万円の壁対策の中身を見ていると、実は政策として一番デキが良いのは立憲民主党案なんです。 ◎「130万円の壁」等を給付で埋める「就労支援給付制度の導入に関する法律案」を再提出 働き控えが問題の発端である103万円の壁解消の政策という点では、立憲民主党頑張っていろいろ考えてちゃんと案出ししてるのに、なんでみんなちゃんと評価してあげないの? そればかりか、一連の国民民主党の活躍によって、もっと多く議席取ってるはずの立憲民主党の支持率が低迷して抜かれちゃったとかマジでアリエンティ。でもまあ、国民からすると、「減税」という言葉の強さに対して「給付」って言われると、なんかその場限りのような気がしてウケが悪いのもあるかと思うんですよね。