フリーアナウンサー・神田愛花『フロリダのバーを目指して。 夏休み旅行記①』
ずっと叶えたかった夢
コロナ禍で大好きなアメリカ旅行に行けなくなった時、せめて気分だけでも、とYouTubeでアメリカの旅行や景色の動画をあさった。その中で私たち夫婦の目にとまったのが、あるバーの動画だった。24時間、バーのテラス席を定点カメラで映しているだけの生中継動画。まったく知らないバーだが、見れば見るほど興味が湧いてきた。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~63回)はこちら そこは静かな田舎町。お店の前の道路には馬車やトロリーがゆっくりと走り、観光地だということがうかがえる。道路を挟んだ向こう側には大きな川が流れ、高さのある船が通過する度、橋桁が上がったり下がったり。バーではあるが朝から営業していて、その景色を眺めながら朝食や昼食を食べるお客さんたちは、とても気持ち良さそうだった。食事が運ばれてくる度に、夫は「この人は何を食べるのかな? スクランブルエッグだ!」と大盛り上がり。夜になると決まって行列ができる人気店で、時にはサイレンを鳴らしながら警察が訪れる夜もあった。 そんな風に一日を通して様子がコロコロ変わるので、飽きずに見続けられた。店員さんのお顔や勤務シフトもわかるようになり、勝手にあだ名を付けて親しみを覚えていた。そしていつの日からか、「いつか絶対ここに行こう!」と言い合うように。コロナ禍の私たち夫婦に、このバーが明るい目標を与えてくれたのだ。 それから4年後のこの夏。ついに現地へ行くことにした。 映像に映る看板によると、バーの名前は、「The Tini Martini Bar(ザ・ティニ・マティーニ・バー)」。Googleマップで検索すると、フロリダ半島の付け根辺りの東側にある、フロリダ州セント・オーガスティンという街にあった。調べるとここはアメリカで最古の都市だということもわかり、アメリカ好きの私にとって行く喜びが倍になった。 羽田からニューヨーク経由でジャクソンビルという街へ飛び、そこから車で1時間余り。乗り換えの飛行機が2時間以上遅れたり、預け荷物がなかなか出てこなかったりで、自宅から宿泊ホテルまでほぼ24時間かかった。 チェックインしたのは22時頃。バーに行列ができ始める時間帯だ。ホテルから歩いて5分くらいの場所にあるので、見に行くことにした。(ついに行くのか!)という嬉しいドキドキと、(ずっと叶えたかった夢がもうすぐ叶っちゃう……)という寂しさや怖さが入り交じった複雑な気持ちになり、歩いている時間が実際よりもとても長く感じた。 ◆動画で見た景色が目の前に! しばらくして周りの暗さとは対照的に、人だかりとイルミネーションで別世界のようにキラキラ輝いている場所が目に入ってきた。ティニ・マティーニ・バーだ。「わぁ……あそこだ」と、二人ともため息交じりの声が出た。「……すごい」「……本当に来ちゃった」。もっとテンション高く、「イェーイ!」とか言っちゃうと思っていたのに、真逆だった。 動画で見てきた通り、入り口にはお客さんの列が。「やっぱり!」と、夫と目を合わせた。込み上げる興奮をようやく素直に表に出せるようになり、お店の前でバシバシ写真を撮り、もう遅いのでホテルに戻った。 翌日、ランチとバーの2回ティニ・マティーニ・バーを訪れ、店員さんに沢山写真を撮ってもらった。あだ名を付けた店員さんはもういらっしゃらないようで、YouTubeの生中継も今はやっていないそうだ。どうりで最近その動画が見当たらなくなっていたわけだ。定点カメラの位置に携帯電話を置き、そこから自分たちの写真を撮った。ずっと見てきたYouTubeに、自分たちが映っているかのようだった。記念の一枚だ。 お店の名前になっているマティーニも飲んでみた。マティーニは店の個性が出ると聞いていたが、ここのマティーニはものすごく濃い塩水を飲んでいるみたいで、特に個性的だった。周りを見てもマティーニを飲んでいる客は一人もおらず、なぜお店の名前にマティーニという言葉が含まれているのか、未だにわからない。だがアメリカ最古の都市は、私たち夫婦を語る上で欠かせない、大切な存在になった。(ありがとう、セント・オーガスティン)。心の中でそう街に伝え、次の目的地、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートへ向かったのであった。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年9月27日・10月4日合併号より イラスト・文:神田愛花
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