俳優今泉マヤが見た「アイミタガイ」 胸を熱くする託された思い
アイミタガイ、なかなか聞き慣れない言葉だと思う。私も鑑賞するまで意味を知らなかった。漢字にすると「相身互い」。同じ境遇のもの同士が同情し助けあうという意味の言葉だ。因果応報、輪廻(りんね)転生……まったく意味は異なるが、なんとなく類似しているような、仏教的な言葉だと感じた。アイミタガイ、アイミタガイ……唱えてみるとお経のような不思議な響きの言葉だとも思う。 【写真】大事なときに梓(黒木華)の背中を押してくれた親友の叶海(藤間爽子) 「アイミタガイ」の一場面 タイトルはさておき。黒木華さん演じるウエディングプランナーの主人公 梓(あずさ)は中村蒼さん演じる交際相手の澄人(すみと)との結婚に踏み切れずにいる。そんななか藤間爽子さん演じる中学時代からの親友の叶海(かなみ)が事故で命を落としてしまう。梓はいつしかスマートフォンを使って自分の心のうちを彼女とのトーク画面に送り続ける日々を過ごすようになる。梓にとって叶海は人生において何度も背中を押し救ってくれた大切な存在であった。ある日「叶海がいないと前に進めないよ」と送ったあと、なんと一斉に送信したメッセージに既読が付くのだが……。
一本の糸で紡がれる登場人物
まず私は同じ世代というのもあり、主人公の梓に共感した。梓は自分の家庭環境のこともあり、結婚をしない前提で澄人と付き合っている。だが、なんとなく適当に付き合っているわけでもなく、澄人にはもっとしっかりリードしてほしいという願いがあったり、このままで良いのかという不安も抱えたりしている。私も30代を手前にしたとき、ふと進路に迷う高校3年生のときのような感情になったことがあった。いっそのこと誰かに決めてほしいと思いながら、あれこれ考えて行動にうつせずになんとなく現状維持を選択し続ける。私の人生、このままで良いのだろうか……。 そんなとき多少無責任でもいいから、背中を押してくれる存在が欲しくなるものだ。梓の場合は親友の叶海がまさにそんな存在であった。叶海は梓と反対に、とても自由に軽やかに生きる女性だ。カメラを片手に世界を飛び回り、裏表がなく、誰とでもすぐに打ち解けてしまう。悲しいことに、映画の冒頭で叶海は事故で亡くなってしまうが、彼女は死後も梓をはじめ、さまざまな人々に影響を与え続ける。そして物語の後半にかけて、ばらばらだった登場人物たちが一本の糸で紡がれるようにつながっていく。これが〝相身互い〟ということかと腹落ちするのだが、その糸を裏で引いているのはきっと叶海であり、彼女が天国からいつも笑って見守ってくれているような、作品全体からそんな温かい空気が漂っていた。