反EVのトランプはなぜ「イーロン・マスク」を重用するのか? 政府効率化省トップに起用、巨額献金と戦略的協力の裏側を考える
トランプ氏支援に巨額献金
また、Xは情報発信力のある重要なメディアであり、選挙期間中には有権者への影響力を発揮するツールとして活用されている。Xはトランプ氏の支持層と親和性が高く、トランプ氏が届けたい情報を伝えるプラットホームとして機能している。 トランプ氏のアカウントは2021年に永久凍結されたが、2022年11月、マスク氏がツイッターを買収した際にアカウントが復活した。この復活には、トランプ氏にとってはあまり活用していないものの、マスク氏にとって大きなメリットがあった。そのメリットとは、Xで表現の自由を重視する姿勢を強調し、中立的なプラットホームとしての立場を示すことができた点だ。 大統領選挙期間中には、マスク氏がトランプ陣営を支援していたことも注目された。多くの米国企業は政治活動委員会(PAC)を通じて影響力を行使しており、マスク氏もそのひとつを利用していると考えられている。 2023年10月15日、米国連邦選挙委員会が開示した書類によると、マスク氏はPACに対し、7月から9月にかけて7500万ドル(約112億円)、さらに10月前半に4360万ドル(約66億円)を寄付したことが明らかになった。この巨額献金がトランプ次期政権にどのような影響を与えるのか、今後の動向が注目される。
トランプ関税がテスラに与える影響
トランプ氏は米国ファースト政策の一環として、メキシコから米国に輸入される自動車に対する関税引き上げを明言している。この方針に対して、マスク氏は警戒感を強め、テスラのメキシコ工場建設を一時的に凍結している。 もし関税引き上げが実行されれば、テスラのグローバルな生産計画が見直されることとなり、トランプ政権下での影響を避けることはできないだろう。 また、テスラはEVに加えて地球温暖化ガスの排出クレジット販売も行っている。世界中で排出量取引制度が導入され、自動車メーカーは温暖化ガスの排出基準を守る必要がある。基準を超過したメーカーには罰則が科され、逆に基準を下回る企業には排出クレジットを取引できる権利が与えられる。 テスラはEVしか製造していないため、ほとんどの国で排出基準を下回り、排出クレジットを獲得する。これを他の自動車メーカーに販売して収益を得ているが、排出クレジットにはほとんどコストがかからないため、収益の多くは純利益として計上されている。実際、テスラの排出クレジットによる利益は約15億ドル(約2200億円)で、純利益全体の1割近くを占めている。 もしトランプ政権が再び環境規制を緩和すれば、テスラにとって新たな課題が生じる可能性がある。環境基準が緩和されることで他の自動車メーカーは基準をクリアしやすくなり、排出クレジットの需要が減少するためだ。 さらに、EV購入補助金の廃止により、EV市場全体の成長が鈍化し、テスラの排出クレジットに対する需要も減少する恐れがある。 そのため、テスラは排出クレジット販売への依存度を低くするために、太陽光事業やロボタクシー、ロボット事業など新たな収益源の開拓を進めている。長期的に見れば、排出クレジットの収益が低下しても、テスラへの影響は比較的小さい可能性がある。
交差する利害のシナリオ
トランプ氏の反EV政策と、テスラを中心にしたマスク氏のビジネス戦略は、一見すると対立しているようにも見える。 しかし、両者の関係は微妙に交差しており、トランプ氏は自身の支持基盤に配慮しつつ、マスク氏の影響力を受け入れる姿勢を見せている。 結果として、双方の思惑が交錯しながらも絶妙なバランスを保っている。今後も、両者は利益を得られる形で協力関係を築いていくことが予想される。 トランプ次期政権で政府効率化省のトップに就任することが発表されたマスク氏は、政権中枢に身を置きながら、テスラ、スペースX、Xなどの事業をどのように展開していくのか、今後の動向から目が離せない状況が続きそうだ。
三國朋樹(モータージャーナリスト)