柿澤勇人×矢崎広 同い年で芝居好き。刺激しあうふたりがつくるクライドに期待! ミュージカル『ボニー&クライド』上演に向けて
アンチヒーローという役どころが自分に来るとは思っていなかった(矢崎)
――“アンチヒーロー”という役どころに挑む気持ちは。 柿澤 クライドは“アンチヒーロー”と称されるけれど、それは外からの括りであって彼には彼なりの正義や目的がある。僕は舞台だと悪役が多いのですが(笑)、彼ら自身は「嫌なことをしてやろう」と思って動くようなことはほぼなく、信念があって行動している。今回もそれは同じだと思っていますし「アンチヒーローを演じるからには観る方にとことん嫌われてやろう!」と思うこともありません。逆に「愛されたい、分かって欲しい」とも思いませんけどね(笑)。 矢崎 僕はアンチヒーローという役どころが自分に来るとは思っていなかったのですが、僕自身はクライドという人物をヒーローとも、ダークヒーローとも思っていないかな。むしろ“ヒーローに祭り上げられちゃった人”。イメージでは“不良でモテている先輩”。そういう人に対しては「不良のくせに」と「かっこいいな」と、真逆のふたつの感情を抱くじゃないですか。だから観る方ごとにイメージが違っていてもいいのかなと思います。ただ、筋は通したいんですよね。これから台本と向き合う段階ではありますが、僕のクライドは強盗に入ることも、人を殺めることも、どこまでも「自分は間違えていない」と思ってやろうかな、と考えています。 ――なるほど、時代の影響はあるけれど「流されて」ではないと。 矢崎 そうです。意志を持って彼は動いている。特に最初の殺人は意図的です。それが重なり、自分のやっていることを大衆が支持していき、どんどん止まれなくなっていったんだと思う。充分な教育を受けていなかったとはいえ実は賢い人で、州をまたいだら警察は手を出せないというような当時の社会システムを利用したりもしているので、そのあたりも計画的だなと思います。もちろん時代が生み出した犯罪者だというところはあると思うんです。大恐慌でお金もない、職にもつけない、食べるものもないという人が山ほどいた。強盗は悪いことですが、至るところで強盗が起き、ある種「社会に対する反抗」として正当化され貧しい人からは正義のように映っていたそうなので。 ――勉強になります……! おふたりとも、作品周辺のことを調べてから作品に挑むタイプなのでしょうか。 柿澤 基本は台本に描かれていることが一番ですが、特に実在した人物、歴史上の人物の場合は資料があればできる限り調べたいですね。そこから得られるものも多いですからね。 矢崎 僕もそうです。昨年『アメリカの時計』という作品に出演した時、演出の長塚圭史さんが事前に調べるタイプの方で、そういうメソッドで芝居を作り上げました。その影響もあり、調べられることがあるならば調べ、入れられる知識はなるべく入れたいと思います。また『アメリカの時計』も同じ1930年代の話だったので、この時に調べた情報も今回使えそうだというのもあります。 ――では、ボニーについてはどう捉えていますか? クライドにとってボニーの存在は大きいと思うのですが。 矢崎 ボニーは真面目な大人しい子で、勉強も頑張っていた。女優になるという夢もあった。本来だったらクライドにはなびかなそうな生い立ちです。クライドからすると、ボニーの自分にはない洗練されたところに惹かれたんじゃないのかな。自分はどうしようもない人生を送ってきたけれど、ボニーに「好きだ」とか「共鳴する」とか言われると、自分が特別なものになれた気がした。自分を癒してくれるような、お姉さんであり妹であり、母親でもあるような、そんな存在に感じていたんじゃないかなと現時点では思っています。 柿澤 映画の最初のけだるそうなボニーの表情が印象的。出会った瞬間から歯車が合うような、パズルのピースが合うような感じだったんじゃないかな。それもあって先ほど「動物的」と表現したんです。理屈ではなく、同じ空気を吸った瞬間、肌が触れ合った瞬間、同じベクトルを向いていることがわかった。それが破滅なのか犯罪なのかはわかりませんが、シンパシーを感じ“運命共同体”になった印象があります。 ――音楽についてもお伺いします。ワイルドホーンさんの音楽は日本でもファンが多く、おふたりとも過去何作も出演していらっしゃいますね。特に柿澤さんは、ずいぶん前からワイルドホーンさんに「クライドをやって」と言われていたそうですが、ワイルドホーンさんとの印象的なエピソードがあれば教えてください。 柿澤 最初に「クライド!」と言われたのは『デスノート』の時。同じ犯罪系ミュージカルだからリンクしたのかな(笑)。単に僕が悪人顔なのかも? 昨年『ジキル&ハイド』をやった時にも言われました。フランクの曲はキーも高く、本当にしんどいんです(苦笑)。でもご本人にそう言ったら「それが正解だ」と。俳優がexhaust(くたくた)の状態になるように僕は書いている、ラクして歌う曲ではないとおっしゃっていました。だから今回も大変なことになる気がします(笑)。 ――矢崎さんも最初にワイルドホーン作品に出演されたのは2011年の『ドラキュラ』ですので、結構長いお付き合いですね。 矢崎 とても気さくで、役者に寄り添ってくださる方です。『ドラキュラ』の曲などは今でも家で口ずさんでいるくらい。日本人の琴線に触れる素晴らしい音楽をたくさん書かれていますね。その後『スカーレット・ピンパーネル』にも出演しましたが、僕も大好きな音楽家さんです。……でも本当に楽曲の難易度は、ヤバい! 柿澤 譜面通りに歌うことがすべてではないという方なんですよね。日本の俳優は真面目な人が多いし、作曲家によっては一音も変えてくれるなという人もいるけれどそうじゃない。俳優の心が動いて、もっと上の音を出したくなったらどんどんフェイクを入れていいからねと言う。キーもその人によって変えてくれるし、なんなら「もっと上の音を出せるんじゃないの!? もっと上に行って!」と上げていく(笑)。俳優としては安全な方向に行きたい時もあるのですが、それを許してくれない方です。 矢崎 僕が最初に「チャレンジ」と言ったのは、そういう部分もあってのことです。フランクさんの楽曲とどう向き合うかも課題のひとつ。しかも1・2回のコンサートだと頑張れるかもしれないけれど、公演は続けていかなきゃいけないですからね。