HD-2D版『ドラゴンクエストIII』制作の舞台裏を堀井雄二氏、早坂将昭氏に直撃!FC版では「ミステリー仕立て」の町を作るアイデアがあった話や「ギャル爺さん」の夢が叶う話など裏話満載
1988年2月10日に発売され、社会現象ともなり、国内で累計販売本数380万本を売りげたRPGの金字塔『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(以下、『DQIII』)。日本列島を震撼させた本作のHD-2D版が2024年11月14日(木)に発売される(Nintendo Switch(TM)、PlayStation(R)5、Xbox Series X|S、Steam(R)、Microsoft Store on Windows。Steam(R)版のみ11月15日発売)。 【画像】新たに語られるオルテガのストーリーにも注目だ 今作は、ドット絵と3DCGが融合した美しいHD-2Dの世界、紡がれる奥深いストーリー、臨場感のある戦闘や新職業、難易度調整などのシステム面も含め現代向けにアップデートされており、往年の「ドラゴンクエスト」ファンはもちろん、新規プレイヤーも楽しめる神作品となっている。 そんなレジェンド作品・「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親・堀井雄二氏と、HD-2D版『DQIII』のプロデューサー・早坂将昭氏に発売直前インタビューを実施。今作の楽しみ方や見どころ、気になるポイントを質問すると、懐かしのエピソードから“ラスボス級の裏話”まで聞くことができた。 ■「えっ!もう終わっちゃうの…?もっと遊びたい!」と思わせたい(堀井雄二) ――『DQIII』のHD-2D版を制作するにあたり、堀井さんが大切にしたことは? 【堀井雄二】「遊びやすさ」ですね!今から36年前の思い入れのある作品をリメイクでき、シンプルにうれしかったです。HD-2D版の発売をきっかけに、「ドラゴンクエスト」の名前は知ってるけど、まだプレイしたことのない人たちにもプレイほしいという思いと、昔からのファンの方には、当時を思い出しながら楽しんでもらいたいです。 ――「遊びやすさ」について深掘りさせてください。「時短」を意識する若者に向けたゲーム調整などはありますか? 【堀井雄二】今までの「ドラゴンクエスト」といえば「町の住民全員に話しかけてヒントを得る」のが攻略のポイントでした。HD-2D版では全員に話を聞かなくても“冒険のヒント”が得られるようになっていたり、バトルスピードが選択できたり、「時短」的な工夫が盛り込まれています。じっくり遊びたい人、サクサクプレイした人、どちらも選べる仕様なのでかなり“遊びやすい”と思います。ただ制作側としては、遊び出したら「時短」は関係なく、「えっ!もう終わっちゃうの…?もっと遊びたい!」と思ってもらいたいですね。 ――ファミリーコンピュータ版『DQIII』は容量の問題もあり、引き算での制作だったと聞いています。そんな当時の思い出は? 【堀井雄二】容量が少ないため(※)、タイトル画面を文字だけにしましたがあれはあれでよかったかな、と思っています。タイトルは文字だけでもよいので、「中身を濃くしていこう」という方向性でした。 (※)DQI:64KB、DQII:128KB、DQIII:256KB ■『DQIII』に「ミステリー仕立て」の町を作る可能性があった(堀井雄二) ――ファミリーコンピュータ版ではタイトル画面がありませんでしたが、ピッピッというゲーム選択音と文字だけの「静」からはじまる映画的な展開にワクワク感が高まりました。なにより、オープニングが文字だけだったからこそ、エンディングの演出が際立ったと思っています。 【堀井雄二】実は当初、『ポートピア連続殺人事件』(※)も出ていたので、『DQIII』の町を1つミステリー仕立てにするというアイデアもありました。ただそれをやってしまうと、容量と時間が増えてしまうので実装はしませんでした。でも、今思えば、入れなくてよかったかもしれないですね。 (※)堀井雄二氏が制作し1983年にPC版ソフトとして発売されたアドベンチャーゲーム。1985年にはファミリーコンピュータ用ソフトも発売された。 ――ミステリー仕立ての町がある『DQIII』……その世界線も興味深いです。今作では、主人公の父親であるオルテガのエピソードが追加されています。これもファミリーコンピュータ版の頃から温めていた企画なのでしょうか。 【堀井雄二】 オルテガの追加エピソードに関しては、今作で温めた分が多いですね。 【早坂将昭】オルテガについては、原作の体験をベースに、プラスαを加える考え方で制作しました。新しいものをどんどん作り出してしまうと、原作にある良さやバランスが崩れてしまうと考えました。勇者の冒険がオルテガの旅路を追う形になるわけですが、プラスαとはいえ、オルテガの追加エピソードには十分な濃さがありますよ! ■今作でも「堀井さんのイタズラ心は天才だな!」と思った(早坂将昭) ――ファミリーコンピュータでブームを巻き起こしていた頃、多くの関連書籍が発売されていました。そのなかの堀井さんのインタビューで「遊び人がレベル99になったら“とんでもない遊びを覚える”構想があった」という記述がありました。残念ながらそれは実現しなかったわけですが、今作にそうした遊び要素は隠し込まれていますか? 【早坂将昭】今作にも堀井さんのイタズラ的な要素が詰まっています。 【堀井雄二】当時を思い返してみると「遊び人4人でクリアする」のも楽しいかな?とか、いろんな遊びをゲーム内に散りばめていましたね(※)。ですが、遊び人の「あそび」を1つ入れるのに呪文1つ分のメモリを消費するので、その点では大変でしたよ。 (※)ファミリーコンピュータ版ではクリア後に主人公をパーティ編成から外すことができる ――今作も堀井さんがセリフをチェックしているとお聞きしました。キャラクターボイスの表記(※)などからも“堀井節”が見られるのですが、チェックしたセリフで印象に残っているものはありますか? (※)仲間のキャラメイクをする際にボイスタイプを決められる。ヤンチャ、じゃじゃうま、うるわし、おいろけなど、“堀井節”が効いた18種類のタイプから選択可能 【堀井雄二】ほとんど原作から変えてないよね。 【早坂将昭】重要なイベントや、原作からの変更箇所はいずれもチェックしていただきましたが、大きな修正もなく、堀井さんから「いいじゃん!」というお墨付きも頂きました。 【堀井雄二】 ボイスについていうと、仲間のキャラクターにボイスがあることで感情移入もしやすくなって「いいな!」という印象です。 ――キャラボイスの追加で戦闘の臨場感が増していると感じました。一方で、昔ながらの無音がよかった、というプレイヤーもいると思いますが…… 【早坂将昭】もちろん、プレイヤーの中にはボイスなしでプレイしたい方もいると理解しています。設定からボイスを「なし」にすることでこれまで通りの効果音でプレイしていただけます。 ■堀井雄二流の「遊び心」とは? ――堀井さんがゲームに忍ばせる「遊び心」について聞かせてください。ファミリーコンピュータ版の『DQI』では特定の条件下で宿屋のセリフが「ゆうべはお楽しみでしたね」に変わります。自分も含め、当時の小学生はこうした遊び要素から、大人の階段を一歩上がった気分になっていました(笑)。 【堀井雄二】そのセリフは、プレイヤーたちが「どんな行動をするか?」という想像を前提に、こう言われたらビックリするかな?というニュアンスで入れました。『DQIII』でいうと、序盤のロマリアで「王様にならないか?」って聞かれるイベントがあって。ゲーム内でそう言われても、普通は王様にはならないと思いますよね。そこをあえて主人公を王様にしちゃうことで、プレイヤーが「本当になっちゃったよ、王様!これどうするの?」ってビックリすると考えたんです。そんな遊びを随所に仕込んでいたこともあって、当時「ゾーマやオルテガが仲間になる」みたいな『DQIII』の都市伝説がたくさん生まれました。そういうのって楽しいですよね。 ――今回のHD-2D版はロト三部作として発表されています。また、2025年にHD-2D版『ドラゴンクエストI&II』(以下、『DQI&II』)の発売が予定されています。 【堀井雄二】 ファミリーコンピュータ版では『I』→『II』→『III』という発売順でしたが、HD-2D版は『DQIII』をプレイしてから『DQI&II』という流れで旅することになります。その始まりとして、今作の『DQIII』をクリアした後に驚きの展開を用意しているので、楽しみにしてくださいね。 ■今までの「ドラゴンクエスト」を「すごく変えない」「すごく変える」ことに注力(早坂将昭) ――早坂さんは今作の制作にあたって、仲間のキャラメイクに特別こだわったそうですが、その理由を教えてください。 【早坂将昭】今作のコンセプトは、原作の体験を大切にしつつ、現代ゲームの観点から“足りない部分は徹底的に変えていく”ことです。つまり、「すごく変えない」「すごく変える」という両軸があり、そのなかの1つとしてのキャラメイクがあります。昨今のゲームでは「キャラメイク」できるのは当たり前です。ファミリーコンピュータ版では、若い見た目の男性武闘家から魔法使いに転職した場合、キャラの見た目はお爺ちゃんになってしまいます。昨今のゲーム体験に慣れ親しんでいる人にしたら、「なんで若者を選んだのに転職するとお爺ちゃんになるの?」ってワケがわからないと思うので、最初にお爺ちゃんを選んだら最後までお爺ちゃんでプレイできるし、若者の見た目を選んだら、転職しても若者でいられると。ゲームに没入できるよう“整合性”を大事にしました。ちなみに、私のお気に入り職業は「魔法使い ルックスB」で、とにかくカワイイ!というイメージです。どんなキャラになっているか見てほしいです。 ――なるほど!ファミリーコンピュータ版の『DQIII』には、老人なのに「ギャルになりたい」という野望を持ったお爺さんが登場するのを思い出しました。あの老人の夢は今作で叶うのでしょうか。 【早坂将昭】今作には、話しかけるとルックスやボイスを入れ替えできる新キャラクターがいます。きっとあのお爺ちゃんの長年の夢「ギャルお爺ちゃん」も叶うと思います(笑)。 ■HD-2Dのドット絵は「一周回って新しい」(早坂将昭) ――『DQIII』を担当するにあたり、早坂さんは「背水の陣」のお気持ちだったそうですが、発売を直前に控えて今の心境は? 【早坂将昭】発売直前で結果がどうなるかはわからないのですが、今のところは世の中での受け止められ方も好意的なのかなと思っています。このあとも『DQI&II』が控えているので、ぜんぜん気は抜けませんが……! ――背水の陣として臨んだ『DQIII』の制作にあたって、特に苦労した部分は? 【早坂将昭】「ドラゴンクエスト」の色味を再現することです。オクトパストラベラーをはじめとしたこれまでのHD-2Dタイトルは、旧スクウェア作品の色味に寄っていたので、今作は「ドラゴンクエスト」らしいビビッド、温かみ、色彩豊かさを表現することに挑戦しました。 開発者スタッフに「ドラゴンクエスト」の色味について聞いても、個々がイメージする「ドラゴンクエストらしさ(色)」というものは違います。「本当に一人ひとりの思い入れが強いゲームなんだ」という再認識と、「どうやったらドラゴンクエストの色味を出せるのか?」を導き出すのが大変でした。 ――HD-2Dのドット絵の魅力はどんなものなのでしょうか? 【早坂将昭】一周回って新しいんだと思います。今はフォトリアルに再現された頭身の高いキャラが動き回るトリプルAといわれるゲームタイトルがたくさんありますが、HD-2Dは真逆の方向性なんだと思います。キャラクターは小さいし、色彩はビビッドだし、主流なゲームとはまったく別の路線なのかと。ですが、昔から多くの人に愛されてきたドット絵の魅力は若者たちにも伝わると感じますし、回り回って新しいのではないでしょうか。 ――おっしゃる通りで、今の若者は小さい頃から『マインクラフト』などのドット絵作品を遊んでいて、「ドット絵=古い」という感覚は持っていないと思います。 【早坂将昭】一方で、今の若者は多くのコンテンツに囲まれているため、ゲームを作ることは「可処分時間の奪い合い」だと思っています。堀井さんもおっしゃっていましたが、時間のないプレイヤーが途中でコントローラーを投げ出さないように、今作ではヒントもわかりやすくして、バトルスピードの設定なども選べてサクサクでプレイきるようにし、テンポを非常に意識しました。 ――私は11月14日の発売日に「DQ休み」(有休)を取っているので、時間をかけたのんびりプレイで『DQIII』を満喫するつもりです(笑)。最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします。 【早坂将昭】今作には『DQIII』→『DQI&II』につながる新しい展開を用意しています。ボリュームはそこまで大きくないですが、その分、インパクトは十分だと考えています。自分もこの中身のことを早く言いたくて仕方ないので、発売が待ち遠しいです!みなさん、ご期待ください。 【堀井雄二】今作は本当に期待を裏切らないものになっているので、HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』をお楽しみに! 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