下水再生水を活用、シンガポールの異次元の「水」政策
極端に言えば、人口約585万人を収めるシンガポール全土、約720㎢(東京都23区をやや上回る)が貯水池であり、水の消費地でもあるのである。実際、シンガポールの都心を流れるマリーナ運河ですら、今日では、海につながらない河口湖と化している。写真2は、海との際を遮断して、淡水水源池を作り出している河口堰の遠望である。 淡水資源を人の手で作る以上、エネルギーの投入が要るので、これを脱炭素化するビジネス・アイデアが課題となっている由である。貯水池水面への太陽光発電パネルの設置などの取り組みは既に始まっているが、もっと革新的なアイデアが求められている。 自分としては、将来のシンガポールでは輸入が盛んになる液化グリーン水素の気化に伴う圧力の利用とかがあるのではないか、などと想像を楽しんでいる。こうした世界最先端のニーズのあるシンガポールには、多くの企業が集まってくる。水関連の技術を持つ企業だけでも100以上を数えるという。 ちなみに、シンガポールは、経済力に任せ、野放図に、水やエネルギーの資源を手に入れようとしているわけではない。50年でのカーボンニュートラル目標にもコミット済みだし、日本よりも高率な炭素税を、エネルギー多消費の工場などに課して、省エネなどを促している。 有名なマリーナベイ・サンズも、その省エネ的な輻射式の冷房を装備している。節水にも熱心で、一人当たりの水消費量目標を定め、順次その低減も進めている。また、逓増的な水道料金設定でも知られている。自分たちが訪れたニューウォーター・ビジターセンターでも懇切丁寧な環境教育が行われていた。一人当たり所得のアジア最大の同国の、先進的な環境政策には目が離せない。 ■小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問) 1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる