シリア・アサド政権崩壊で高まる“中東全面戦争”リスク、「抵抗の枢軸」弱体化でイランは核武装へ突き進むか
シリアのアサド政権が崩壊したことで中東情勢が緊迫している。特にイランにとってはアメリカやイスラエルに対する「抵抗の枢軸」の弱体化が避けられず、核武装へと突き進むかもしれない。そうした動きを阻止しようとイスラエルがイランを徹底攻撃すれば、中東全域を巻き込んだ大規模な戦争に発展する可能性がある。 【写真】イランにとってシリアは「抵抗の枢軸」の要(かなめ)だった。写真は最高指導者ホメイニ氏と会談するシリアのアサド大統領=2022年当時 (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー) 内戦状態が続いていたシリアで12月8日、反体制派が首都ダマスカスを制圧し、親子2代で50年以上に及んだアサド政権が崩壊した。政権維持を断念したバッシャール・アサド大統領は家族とともにモスクワに亡命したと言われている。 シリア内戦は2011年に始まったが、2020年以降は膠着状態にあり、世界の関心は薄れていた。ところが、反体制派が11月27日に進軍を開始すると、わずか10日あまりで首都を奪還してしまった。 「中東情勢の一寸先は闇」との警句の正しさを改めて痛感した形だ。 中東カタールのメディア、アルジャジーラによれば、反体制派の進軍に直面した政府軍の兵士たちは武器を捨てて逃げ出したという。内戦の長期化による経済の疲弊やアサド政権の恐怖政治に対する不満から士気が低下していたことが理由として挙げられている。 アサド政権を支えてきたロシアとイランからの軍事支援がなかったことも災いした。 ロシアはウクライナとの戦争で手一杯であり、イランの代理組織ヒズボラもイスラエル軍からの激しい攻撃を受け、シリアに援軍を派遣できなかった。 アサド政権崩壊を主導したのは「シャーム解放機構(HTS)」だ。HTSは国際テロ組織「アルカイダ」が前身で、国連や米国などからテロ組織に指定されている。戦闘員の規模は約3万人との見方もある。 指導者のムハンマド・アル・ジャウラニ氏はシリア生まれの42歳、イラクのアルカイダに加わり、その後シリアで「ヌスラ戦線」を創設。2016年にアルカイダとの縁を断ち、穏健派に変身したと言われているが、米国はこれについて懐疑的だ。 シリアのジャラリ首相は9日、HTSが北西部イドリブ県を拠点に設立していたシリア救国政府に対し、政権を委譲することに同意したが、スムーズな権力委譲が実施される可能性は低いだろう。