運転記録の未提出めぐり生活保護支給停止、名古屋高裁も「違法」判決
車の運転記録提出を求める行政指導に従わなかったために生活保護の支給を止めたのは違法だとして、三重県鈴鹿市の親子が停止処分の取り消しなどを市側に求めた訴訟の控訴審判決が30日、名古屋高裁であった。中村さとみ裁判長は一審・津地裁判決を支持し、市側の控訴を棄却した。 【写真】名古屋高等裁判所 原告弁護団によると、生活保護受給者の自動車保有を巡る控訴審で、受給者側が勝訴したのは初めてという。 一審判決などによると、原告は女性(82)と同居の次男(56)。女性はがんで、次男は脳からのホルモン分泌が低下する難病を患い、いずれも障害者手帳を取得している。市は2019年8月から生活保護を支給。次男は通院が必要不可欠だが長距離歩行が困難なことから、21年7月に「次男の通院に限る」との条件付きで以前から所有していた車の利用を認めた。2人はガソリン代などの車両維持費を生活保護の範囲内でまかなってきたという。 生活保護制度は、通院や通勤で公共交通機関の利用が著しく困難な場合など、車の保有や利用には厳格な要件がある。 市は車の利用状況を確認するため、原告側に複数回、市の基準に基づいた独自の運転記録票の提出を求めた。その上で22年9月、経路などを正確に書いた記録票を提出するといった市の指導に従わなかったなどとして、生活保護の支給を停止。原告側は同年10月、停止処分の取り消しを求め、市を提訴した。 一審・津地裁は、市が記録票に車利用の用件や経路などの記載を求めた点を「過剰の疑いがある」と批判。女性もひざの手術の影響で高低差のある場所を歩くことが難しく、車を日常生活の買い物や灯油の購入などに利用していたが、原告らが日常生活に必要な範囲で車を使うことは「むしろ自立した生活を送ることに資する」と評価し、通院以外の買い物などの目的で車を使ったという違反の程度は「軽微」だと判断した。 その上で、経済的に厳しい原告の生活状況を市は把握していたはずなのに、違反の性質を問わずに悪質と判断する硬直的な運用で、漫然と違法な停止処分をしたと指摘。処分を取り消した上で、原告に計20万円を賠償するよう市に命じた。(奈良美里)
朝日新聞社