【リバプール分析コラム】凄すぎるスロットの修正力。「シーズン最悪」の前半から、蘇らせた方法とは?
プレミアリーグ第10節、リバプール対ブライトンが現地時間2日に行われ、2-1でホームチームが勝利した。現地の記者も「今季最悪の前半」と評するなど、最初の45分はリバプールにとって悪夢だったが、後半に見事なカムバックをみせる。その立役者となったアルネ・スロット監督が行ったチームを蘇らせる修正とは。(文:安洋一郎) 【動画】リバプール対ブライトン ハイライト
●リバプールがブライトンに逆転勝利 絶好調のリバプールが第10節でブライトンに2-1の勝利を収め、今節を終えてプレミアリーグの首位に立つことが確定した。 ただ、この勝利は簡単に手にしたものではない。同日に試合が行われたアーセナルとマンチェスター・シティがニューカッスルとボーンマスにそれぞれ敗れた中で、リバプールも彼らと同じように苦しんだ。 特に前半のパフォーマンスは乏しく、完全に相手のペースで45分間を過ごした。14分の失点シーンを含めてブライトンに何度か決定機を作られた一方で、リバプール側にあった決定機は9分のダルウィン・ヌニェスの個人技から生まれたシュートシーンのみ。 『The Athletic』でリバプールの番記者を務めるグレッグ・エバンス氏は自身の『X』で、完全に相手チームのペースで進んだ前半を「間違いなく、リバプールにとってシーズン最悪の前半だ」と評価した。 0-1で敗れた第4節ノッティンガム・フォレスト戦よりも前半の内容が厳しかった中で、アルネ・スロット監督はチームにどのような修正を加えて逆転劇に導いたのだろうか。 ●前半にリバプールが苦しんだ理由 前半にリバプールが苦しんだ理由は「攻守におけるプレスの嚙み合わせ」が悪かったからだ。まずはリバプールのハイプレスがブライトンの最終ラインにハマらなかった理由から考察する。 この試合でブライトンのファビアン・ヒュルツェラー監督はレギュラーとして起用していたカルロス・バレバをベンチに置き、今季初めてヤシン・アヤリとジャック・ヒンシェルウッドのダブルボランチをスタメンに抜擢していた。 [2-4-4]の形でビルドアップを行うブライトンで特長的だったのが、最終ラインでボールを保持する際に右センターバック(CB)のヤン・ポール・ファン・ヘッケとダブルボランチ(アヤリとヒンシェルウッド)の3名のポジションが流動的だったことである。 ●危険なシーンは共通していた? GKのバルト・フェルブルッヘンと左CBのイゴールは変わった動きをしていないのだが、先述した3人の状況に応じた流動的なポジショニングに対して、リバプールの前線4枚のプレスがハマらず。特にアヤリのポジショニングと相手のプレッシャーを剥がす個人スキルの高さはリバプールにとって厄介となり、プレスを反転されてからの疑似カウンターを何度も受ける結果となった。 その代表例が27分のシーンだ。フェルブルッヘンを使った数的優位なビルドアップであっさりとプレスをかわされると、ファン・ヘッケからの縦パスを受けたアヤリが相手の最終ラインの裏へスルーパスを供給。これに反応したジョルジニオ・リュテールがフィルジル・ファン・ダイクに身体を当てられながらもシュートに持ち込んだ。 このシーンはゴールへと結びつかなかったが、14分のブライトンの得点シーンもプレスを反転させてからの攻撃で、リバプールからすると相手の変則的なビルドアップに適応できないまま前半の45分間を過ごすこととなった。 一方のリバプール側のビルドアップは、相手の2トップにCBからライアン・フラーフェンベルフとアレクシス・マック・アリスターのダブルボランチへのパスコースを消され続けており、一度ボランチの選手にパスを当ててから展開する狙いの形があまりできずにいた。 この「攻守におけるプレスの嚙み合わせ」の悪さが、リバプールの試合内容の悪さに直結していたのだが、後半になるとスロット監督の手腕によって大きな修正が行われる。 ●試合の流れを変えたスロット監督の修正 最初に行った修正が、トレント・アレクサンダー=アーノルドのボールを受ける位置の変更である。前半は右サイドに張ったままだったイングランド代表DFは、後半になるとボランチの位置へと積極的に顔を出して、最終ラインの選手たちからのパスの選択肢を増やした。 この変更によってリバプールのポゼッションは劇的に安定する。前半の支配率は48%に留まっていたが、59分に試合の画面に表示された後半開始14分間の支配率は72%まで向上していた。 後半開始直後から自分たちでペースを握ることに成功すると、指揮官は66分という早い時間帯でカーティス・ジョーンズとルイス・ディアスをマック・アリスターとドミニク・ソボスライと代わって投入。ディアスをトップ下で起用する、これまでの試合では見られなかった攻撃的な采配をみせ、ピッチ上の選手たちに勝負の時間帯であることを伝えた。 すると、70分にコーディ・ガクポ、72分にモハメド・サラーにゴールが生まれてあっという間に逆転に成功。中でも72分の得点は、自陣ボックス内でボールを回収したジョーンズとトップ下に入ったディアスがカウンターの局面でボールを運んだことが起点となっており、指揮官の交代策がしっかりとハマった。 77分には、普段とは違う中盤の構成だったことから遠藤航をヌニェスに代えて投入し、攻撃的な布陣からいつも通りの形へと再変更。試合をクローズする役割を与えられた日本代表MFは、状況によって最終ラインに吸収される形でクロスを跳ね返すなど自らの役割を実行した。 一方のブライトンは監督を含めて若さが出てしまった。リバプールにボールを握られたことで、動かされた選手たちの疲労が色濃くなったが、ヒュルツェラー監督は76分まで選手交代に踏み切ることができなかった。 疲労が色濃くなったことで、前半は効果的だった変則的なビルドアップも雑になり、スロット監督の修正を前に手も足も出ない形に。両指揮官の“修正力の差“がスコアに出る形となったと言っても良いだろう。 冒頭に述べたように、この勝利でリバプールはプレミアリーグで単独首位に躍り出た。レギュラーCBのイブラヒマ・コナテが前半のみで負傷交代するなど、全ての物事が順調に進んでいるわけではないが、アンフィールドでのユルゲン・クロップ体制を彷彿とさせる逆転勝利は間違いなくチームに勢いをもたらすはずだ。 (文:安洋一郎)
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