お客様は「神様」ではなく「お互い様」の関係に カスハラ防ぐカギ、航空業界の現場から考える
空港の地上業務を担う業界団体「空港グランドハンドリング協会」がカスタマーハラスメントの対応ガイドライン策定に取り組んでいる。同協会の小山田亜希子会長と、それを支援する日本カスタマーハラスメント対応協会の島田恭子代表に議論してもらった。AERA 2024年5月20日号より。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 小山田:空港グランドハンドリング協会(空ハン協)は、お客様の搭乗などをサポートする「旅客ハンドリング」、航空機へ手荷物や貨物などの搭降載を行う「ランプハンドリング」、航空機に貨物を積む調整を行う「貨物ハンドリング」、航空機の運航をサポートする「オペレーション」など空港機能を維持する上で不可欠な業務を担う業界団体です。昨年8月に結成し、85社の従業員約3万9千人が加盟しています。カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、設立総会の時点で加盟事業者の共通課題である人手不足解消施策の一つとして取り組む方針を打ち出しました。事業者を対象にした実態調査の結果を踏まえ、最も難しいのが「クレーム」と「カスハラ」の境界の見極めだと気づきました。カスハラの定義を明確にする対応ガイドラインの策定は必須と考えています。 島田:私たちは学術的な研究知見やデータを活用し、職場の実情に即したガイドラインの策定支援を行っています。巷にはカスハラに限らず、さまざまなマニュアルやガイドラインがありますが、実践の場で本当に役に立つ「使えるもの」はそう多くないと感じています。私たちが目指すのは「従業員が顧客対応で困った時にどうすればいいか、組織としてはどう対処すべきかを判断できる仕組みづくり」です。今回の策定ポイントは「空ハン協独自の基準を定める」「国際標準のものさしを使って、カスハラによるストレスを見える化する」「カスハラのレベルに応じた適切な対策をシステマチックに行う」の三つだと考えています。
──日常業務の現場ではどのようなカスハラが起きていますか。 小山田:今回実施した実態調査では、「暴言」が最も多く6割近く、次いで、「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」(43.1%)、「長時間拘束」(37.3%)が多かったです(いずれも複数回答)。被害報告が最も多いのは旅客スタッフです。具体的には、「頭悪いんじゃないか」「お前じゃ話にならない。男を出せ」などの暴言や、「殺すぞ」「社長に言って辞めさせるぞ」「SNSに投稿する」といった威嚇や脅迫、スマホで係員の顔や社員証の写真を撮影して心理的に圧迫するケースもあります。さらに、予定の便に乗り遅れた時、手荷物ルールに納得できない時などに係員に対して「叩く」「蹴る」「施設や設備を破壊する」といった暴力行為も報告されています。貨物スタッフがトラックドライバーから威圧的な言葉を投げられるなど、BtoB(企業間取引)の関係でもカスハラがあるとの話があります。地上業務を担うグランドハンドリングスタッフの多くは、航空会社からの委託先事業者の従業員であり、現場の航空会社のスタッフから強い言葉で指導されるケースもあります。また、自社のカスハラ発生状況を把握できていない事業者が5割強に上ることも分かり、対策が急務だと実感しました。 ■公共性の高さと継続性で、被害が増える傾向に 島田:具体的なカスハラ被害をうかがって感じたのは、カスハラが多く発生する業種・業態に共通点があることです。まず「公共性が高い」ということ。運輸サービス業はまさにそうですが、公共交通機関以外にも役所や学校、医療機関、介護福祉の現場が挙げられます。いずれも公共性が高いと認識されており、利用者の中には「手厚いサービスを受けて当然」という横柄な気持ちをもつ方もいます。次に「顧客との関係が継続的で付き合いが長い」業種もカスハラが増える傾向にあります。航空業界もヘビーユーザーの方が一定割合おられますね。中には「自分は特別だ」という意識の方もいるでしょう。航空業界はいずれにも該当しますね。業種的に顧客によるストレスを受けやすい可能性を考慮しておく必要があるでしょう。さらに私たちが重要視しているのは、カスハラの頻度だけでなく、それぞれの事案の被害の大きさです。カスハラをどれくらい受けているかの回数もさることながら、それによって対応者がどのくらいストレスを感じているか、組織が疲弊しているか、をきちんとしたものさしで可視化しておかないと、離職や休職が増える原因になりかねません。もう1つ私たちの研究で分かったことは、カスハラによる心身の悪影響を受けやすいのは、男性よりも女性であり、組織の対応が手薄な職場にいる方々でした。空港のグランドサービスは女性が多く、公共性が高く、継続的な利用者が多い…。空ハン協がカスハラ対策に力を入れる必然性を感じます。