【ルフィ広域強盗事件】「シュガー」渡辺被告のiPhoneロックを解除! アップルでも解除できないロックをハイテク班はいかにして解いたか
iPhoneのロック機能を突破
2月下旬には捜査1課、2課、3課からなる約40人態勢の総合捜査本部を立ち上げる。刑事部全体で構成する捜査本部は、1990年代の一連のオウム真理教による事件以来とみられ、いかに刑事部がルフィグループの全容解明に力を入れていたかがうかがえる。膨大な捜査資料はすべて担当を割り振って読み込んだ。渡辺被告らと同時期にビクタン収容所にいた人物を洗い出し、捜査2課の協力者の男も含め聴取を重ねた。スマホは警視庁の捜査支援分析センター(SSBC)で分析され、他県ではできなかったデータの抽出と復元に一部成功した。捜査本部は、特殊詐欺に絡む窃盗容疑で複数回、逮捕を繰り返す一方で、広域強盗事件の指示役の立件に向け着々と捜査を積み上げた。 広域強盗事件でも、インターネットの闇バイトで実行役を募り、グループからの離脱を防ぐために身分証を送らせたりするなど特殊詐欺と同様の手法が取られていた。渡辺被告らがビクタン収容所に入った後も特殊詐欺の「かけ場」は別の関係者が維持したまま、収容所の中から今村、渡辺被告らは広域強盗へと手口を拡大させた疑いがある。 渡辺被告らの強制送還から約4ヵ月。警視庁は6月14日、千葉、京都、広島、山口の4府県警との合同捜査本部を設置し、広域強盗事件の指示役の立件へと動き出す。重点捜査対象は、実行犯が共通するなど関連性が高い5都府県の広域強盗8事件。実行役の供述やスマホの解析から、指示役はルフィ、キム、ミツハシ、シュガーなどと名乗っていたのが分かっており、渡辺被告ら4人がそれぞれどのアカウント名に該当するのかの特定が重要だった。 合同捜査本部は第1弾として6月29日、京都市で2022年5月、貴金属店から腕時計など販売価格6900万円相当を奪ったとする強盗容疑で今村磨人被告を逮捕する。京都市の事件ではルフィが指示役として登場していた。警視庁刑事部の幹部は「今村がルフィであると特定する材料が多い京都の事件から最初は入った」と明かす。この事件では実行役ら10人以上が京都府警や大阪府警に逮捕、起訴されていたが、うち1人の20代の男が「ルフィから指示を受けていた」と供述。男は被害品の換金分のうち約100万円をフィリピンにいる今村被告の口座に振り込んでいた。「ルフィは今村であるということを、京都の事件を立件することでまず確定させた」と刑事部の幹部。 実はこのころ、捜査本部は決定的な客観証拠をつかむことになる。刑事部の総合捜査本部に入っていた捜査1課のハイテク犯罪捜査班が、マニラの入管施設で押収され引き渡しを受けた渡辺被告のiPhoneのロック機能を突破し、解除に成功したのだ。データから狛江市の事件で倒れる被害者や住宅の外観、事件に使われたレンタカーの写真や地図アプリで現場の住所を検索した記録などが見つかったという。 米アップルのiPhoneのロック機能は、利用者が決めたパスコード(暗証番号)が分からなければ、アップルですらデータを抜き取ることができないとされる強固な壁だ。2015年12月に米カリフォルニア州で起きた銃乱射テロで、死亡した容疑者が使っていたiPhoneのロック機能解除を巡り、米連邦捜査局(FBI)が外部から解除できるようにする基本ソフト(OS)を作るよう求めたのに対し、アップルが拒否したため対立が注目された。 渡辺被告のiPhoneのパスコードは6桁の数字。ハイテク犯罪捜査班は当初、人工知能(AI)を使って数字を打ち込んでいったが解除できない状態が続いた。iPhoneはパスコードを打ち込める回数が決まっており、入力ミスがその回数を超えるとデータがすべて消去される設定もある。ハイテク犯罪捜査班はパスコードを入力できる回数が残り1~2回になったことからAIの利用を中止し、AIに頼らず自分たちでパスコードの割り出しに挑戦する。 同捜査班の班員らは、警視庁に隣接する警察総合庁舎6階にあった捜査本部に泊まり込んで検討。渡辺被告に関係するとみられる数字を膨大な資料の中から集め、400ぐらいのパスコードの候補の中から20程度まで絞り込む。さらに経験に頼って候補に1位、2位……と優先順位をつけ、その根拠も記して、最終的に捜査1課の管理官と係長に諮って一つのパスコードを決定、それを打ち込んだところ――、「解除」。その瞬間、帳場(捜査本部)は総立ちとなり、捜査員らは全員、駆け寄ってきて画面をのぞき、大騒ぎになったという。 客観証拠の存在は裁判の行方を大きく左右する。刑事部の幹部は「パスコードを突破するのは地道な作業で、渡辺被告に関する捜査本部のあらゆる資料を集めて分析しながら数字を選択し、最後の残り1回ぐらいのギリギリで開けることができた。これは大前進だった」とハイテク犯罪捜査班の功績をたたえた。ハイテク犯罪捜査班はその後、藤田被告のスマホのロック機能も解除している。 続きは<【ルフィ広域強盗事件】5年に及んだ匿流との闘い。さらに裏にある日本人犯罪組織「JPドラゴン」の尻尾をつかむ>で公開中です
甲斐 竜一朗(共同通信編集委員)