【ルフィ広域強盗事件】「シュガー」渡辺被告のiPhoneロックを解除! アップルでも解除できないロックをハイテク班はいかにして解いたか
---------- 30年を超える記者生活で警察庁・警視庁・大阪府警をはじめ全国の警察に深い人脈を築き、重大事件を追ってきた記者・甲斐竜一朗が明らかにする刑事捜査の最前線。最新著書『刑事捜査の最前線』より一部を連載形式で紹介! 【前編】2023年最大の匿流「ルフィ広域強盗事件」警視庁はどう追いつめたか 前編記事<2023年最大の匿流・「ルフィ広域強盗事件」、3年前から追っていたフィリピンのグループを警視庁はどう追いつめたか> ----------
「ここまで来たか」
稲城市の事件から約3ヵ月後の1月19日、前述の狛江市の強盗殺人事件が発生する。90歳の高齢女性を撲殺するという残忍極まりない犯行態様。各地で発生した事件の中で唯一死者が出たこの事件を契機に、広域強盗事件は国民の体感治安を急激に悪化させる。犯行グループの実態解明と壊滅、何より首謀者の摘発は関係する都道府県警の刑事警察にとって最重要の課題となった。 警視庁は調布署に特別捜査本部を設置し、発生翌日の1月20日に最初の捜査会議が開かれる。捜査1課の現場レベルではその時点で、協力者の男から得ていた情報があり、狛江市の事件もビクタン収容所から渡辺被告らが指示を出した疑いを強く抱いていた。強盗犯捜査係は、殺人の被害者が出たことを受け「ここまで来たか」と強い危機感を抱いたという。 狛江市の事件発生の翌週、警視庁本部庁舎6階の刑事部長室に捜査1課、2課、3課の課長や管理官が顔をそろえた。捜査1課を中心にして刑事部の総力を挙げて「ルフィグループ」の摘発に当たることが決まった。刑事部長からは「合同でやる。2課も3課も協力して人を出してくれ」と指示が飛んだという。狙いは一連の広域強盗事件での渡辺被告ら4人の指示・命令系統の解明と逮捕。被害者が死亡した狛江市の事件を「本丸」と位置づけ、摘発の流れが練られた。 戦略はこうだ。外務省にも働きかけて渡辺被告ら4人を強制送還させた後は、特殊詐欺に絡む窃盗容疑で逮捕状を持つ捜査2課がまず逮捕する。当面は特殊詐欺の余罪で複数回、逮捕を繰り返し、その間に広域強盗事件の捜査を進める。この時点で渡辺被告らの強盗への関与を示す証拠は、捜査2課が運用していた協力者の男の証言だけだ。2課が特殊詐欺で身柄を持つ間、どれだけ客観証拠を集められるか、関係者からの供述を積み重ねられるかが、4人を広域強盗の指示役として立件するための鍵になるのは明らかだった。 警察庁長官の露木康浩は狛江市の事件から1週間後の1月26日、定例の記者会見で「首謀者を解明、摘発することが重要だ。被害者が亡くなられるという重大な被害に至っており、防犯情報の発信を行い、国民の不安感の払拭に努めたい」と語った。翌27日には14都府県警の刑事部長らを集めた捜査会議が東京・霞が関の警察庁で開かれた。同庁刑事局長の渡辺国佳は「一連の事件は社会的な反響があり、国民の不安も高まっている。関係警察が一丸となって強力な捜査を推進してもらいたい」と徹底的な摘発を求めた。 渡辺被告ら4人は広域強盗への関与が浮上してから間もなく強制送還される。今村、藤田被告が2月7日に、渡辺、小島被告が同月9日に帰国させられ、いずれも特殊詐欺に絡む窃盗容疑で逮捕された。このころには、4人の関与が疑われる特殊詐欺は被害額が60億円以上と判明、マニラで拘束された36人を含め約70人が摘発されていた。 広域強盗事件も14都府県で五十数件に上り、各地で実行役ら60人以上が京都や広島、山口などの各警察本部に逮捕されていた。渡辺被告ら指示役4人については、東京以外での発生も含め関与した事件はすべて警視庁が捜査することが決定。東京地検とも協議し、すべての事件資料が東京に集められることになる。各府県警は供述調書や捜査報告書などそれまでの事件資料をすべてコピーし、警視庁がそれをトラックで回収。各府県警が押収していた容疑者のスマホも東京に運び込まれた。捜査資料の分厚いファイルは600冊以上、スマホは約70台に上った。