ベルギーだけではなく欧州も一枚岩になれず 「テロ対策」情報共有の難しさ
ベルギーの首都ブリュッセルで先月22日に発生した連続爆弾テロ事件は、空港や地下鉄駅の構内で32人が死亡し、300人以上が負傷する大惨事となりました。ベルギーの捜査当局は9日までにテロに関与した疑いのある6名を拘束。その中には、ブリュッセル空港で2人の自爆テロ犯と事件前に行動を共にし、逃走を続けていたモハメド・アブリニ容疑者も含まれています。ブリュッセル事件の関係者の逮捕によって、実はパリの再襲撃が当初の計画であった事実が明らかになりました。加えて、欧州各国におけるテロ対策での情報共有の困難さも浮き彫りになっています。 【写真】ブリュッセルで連続爆発 後手に回ったベルギーのテロ対策(3月23日)
当初の標的はパリだった?
ベルギーの検察当局は10日、ブリュッセルで連続テロを起こしたグループが、当初はブリュッセルではなく、パリを再び襲撃する準備を進めていたと発表。昨年11月のパリ連続テロ事件で実行犯として逃走を続けていたサラ・アブデスラム容疑者がベルギー国内で逮捕され、警察による捜査活動が厳しさを増してきたため、攻撃目標がパリからブリュッセルに急きょ変更されたと検察側は主張しています。ブリュッセルでのテロ事件に関与したとされる容疑者は、現場で死亡した3名以外は全て拘束された模様で、ブリュッセルとパリで発生したテロ事件の繋がりについて、全容解明が期待されます。 ブリュッセルで発生した同時テロ事件をめぐって、「ベルギー当局の対応が後手に回った」という指摘や、反対に「どの国であっても、このようなテロを全て未然に防ぐことは不可能だ」という意見も存在し、見方が分かれています。しかし、昨年11月にフランスのパリで発生した同時テロ事件後に、アメリカ政府が欧州各国の治安担当者らとテロ対策で協議を進めていたものの、各国間の情報共有が上手く行われていなかったとする報道もあります。 ニューヨーク・タイムズ紙は4日、ブリュッセルでテロ事件が発生する約1か月前に、アメリカ政府のテロ対策特別チーム(FBI、国務省、国土安全保障省から選ばれた6名で構成された専門家のチーム)がベルギー側のカウンターパートと、情報の効率的な共有や国境管理の強化について協議を行ったものの、アメリカ側の要請は結局受け入れられなかったと伝えています。 3月のレポートでもこの問題に関して触れましたが、長きにわたり異なる言語や文化をめぐって国内で対立が続いている、ベルギー独特の国内事情も理解しておくべきでしょう。 ベルギーは文化的に、北部のフラマン語圏と南部のワロン語圏に二分され、前者はオランダ文化圏で後者はフランス文化圏になります。首都ブリュッセルでは公用語としてフランス語とオランダ語の両方が使われ、交通標識なども複数の言葉で書かれたものが珍しくありません。多言語国家であるベルギーでは、他にもドイツ語が話される地域も存在しますが、言葉によって警察の管轄が大きく分かれ、互いをライバル視し、情報共有に消極的になる傾向が1980年代から続いています。 数字だけを見れば、ブリュッセル周辺ではフランス語を使う市民の数が圧倒的に多いものの、ブリュッセルは地理的に南部のフランス文化圏の最北端に位置しており、ブリュッセルから少し離れると完全なオランダ文化圏に入ります。ベルギーでは2010年6月に行われた総選挙後、フランス語圏とオランダ語圏の議員の間で対立が深刻化。2011年暮れまでの約1年半、内閣不在の状態が続くという異常事態も発生しています。北部のオランダ語圏が経済的により恵まれているという背景もあり、イタリアの南北問題に似た事情も見え隠れします。ブリュッセルだけで10を超える異なる警察組織が存在し、組織間の情報共有の欠如は以前から指摘されていました。