ベルギーだけではなく欧州も一枚岩になれず 「テロ対策」情報共有の難しさ
情報は結局アメリカ頼み?
ブリュッセルでのテロ事件から間もなくして、ヤン・ヤンボン内務大臣は辞意を固めましたが、シャルル・ミシェル首相によって慰留され、辞意を撤回しています。フラマン語圏の地域政党「新フラームス同盟」に所属するヤンボン大臣は、昨年11月に発生したパリ連続テロ事件をうけて、警察や情報機関の予算拡大を実施しました。2015年1月にはベルギー東部の町ヴェルヴィエにおけるジハード組織の壊滅作戦も成功させ、対テロ対策での手腕が期待されていましたが、ヤンボン大臣が提出した法案のほとんどは連立政権内からも「プライバシーや管轄が侵害される」との批判が相次ぎ、廃案に追い込まれています。 廃案に追い込まれたものの中には、義勇兵としてシリアなどで戦闘に参加し帰国したベルギー人に対し、足にGPS付きのブレスレットを装着させて、行動を常時確認するといったものや、全てのベルギー国民の指紋をデータベース化するといったものがありました。しかし、「フラマン人のナショナリストがベルギーを監視国家にしようとしている」といった批判が相次ぎました。監視国家化への懸念に加えて、法案を作成したヤンボン大臣に対するフラマン人以外からの批判が、ベルギーの抱える「アイデンティティ問題」を如実に表しています。
ベルギーの独特な国内事情がテロ対策を進めるうえで大きな壁になっている可能性は否定できませんが、情報の共有に関しては、他のヨーロッパ諸国にも問題は存在するようです。 前述のニューヨーク・タイムズ紙の記事では、複数の米政府高官が近隣諸国との情報共有に消極的なヨーロッパ全体の傾向を指摘しています。ヨーロッパ各国の情報機関がそれぞれ、テロに関する情報をFBIやCIAと共有しているにもかかわらず、同様の情報がヨーロッパの各国間では共有されていない実態があり、結局アメリカがテロ情報のハブ的存在となり、ヨーロッパの各国にあらためて情報を提供するという流れに、アメリカ側が頭を抱えているようです。 (ジャーナリスト・仲野博文)