フジテレビアナウンサーの「新人アナいじり」はタチが悪い? ハラスメントとの境界線の見極め方
■「いじり」が「ハラスメント」になる場合も 容姿について「いじって」いたことについて、 「相手との関係性によりますが、“いじり”も、ハラスメントになる可能性は十分にあります。『受け手がどうとらえているかによる』ところはありますが、相手が笑っているからといって嫌がっていないとは限らない。そもそも、相手がどのような反応をしていようが、容姿で笑いをとるというのは不適切です。世界的に見てもスタンダードなコミュニケーションとはいえません。これがハラスメントだととらえられてもおかしくはないと思います」 と話す。 そして、中野さんは、 「“いじり”は“いじめ”よりも、悪意なくエスカレートすることがある」 と主張する。 「“いじり”とは、加害者側にとって『悪意がない』ということも多いです。明確な悪意や、人のことをおとしめてやろう、と思っているいじめよりも、『悪意なき』いじめの方が改善しにくいこともあるかもしれません」 また、「職場」という環境での“いじり”は「特によくない」として、こう説明する。 日本の職場は、上下関係がはっきりしており、同時に権力関係も明確になっています。今回のように、23歳の入社したての新人が、先輩社員に対して何かを言えるかというと、言えない立場であることがほとんどです。その力のバランスを無視して、自分が目上の人に言わないようなことを、自分より年齢や社歴が短く、自分に対して強く出ることができないであろう人に対して言うというのは、“相手を見下している”からできるわけです。人の目にはより悪質な行為として映ります」
■「いじり」のコミュニケーションはメンタル悪化の原因に 上司の中には「いじり」でコミュニケーションをとる人もいる。コミュニケーションとハラスメントの境界線はどこにあるのだろうか。 中野さんはこう話す。 「コミュニケーションが活発なこと自体は、職場として悪いことではありません。しかし、特定の誰かをネタにして、“いじり”をしないと取れないコミュニケーションは、十分に人を傷つけ、気づかないうちにメンタルを悪化させ、最悪の場合、死にも追いやることがあります。私が実際にいじられている側に取材をすると、傷ついていることが多く、メンタルヘルスに悪影響を及ぼし、自殺しそうになるほどの事例がありました」 そうした経験を踏まえ、中野さんは、 「いじられている本人が笑っていたとしても、人をおとしめるような言動を繰り返すことは危険だということを、上司や同僚たちも理解する必要があります。上司にいじられ、笑っているのは、その職場の雰囲気を壊したくない、という気持ちがあるなど、気を使っているケースもあります。言われている側の気持ちに立つことは上司の責務です」 と注意を促す。一方、いじられている側に対してはこうアドバイスする。 「すでに“いじられキャラ”として定着し、そのコミュニケーションが主となってしまって苦しくなっている人も、何かしらのアクションを起こしたほうがいいかもしれません。例えば、いつも笑っているのであれば、無表情になってみたり、1人で抱え込んでいるのであれば、他人を頼ってみたりする。『つらい』という声をとにかく外に向けて発信することが大事です」 今回は、アナウンサーという言葉を扱う職業だったり、テレビ局という“特殊”な場所であったりしたことも、大きな騒動につながった要因とみられる。とはいえ、口は災いの元。どの社会でも軽はずみな言動が思わぬハラスメントにつながる可能性があることを忘れてはいけない。 (AERAdot.編集部・小山歩)
小山歩