「オフィス復帰の義務化」が生産性に与えるネガティブな影響
オフィス回帰の方針は人材獲得を困難にする
■従業員の追跡は士気を低下させる 多くの企業は、オフィス回帰方針の遵守状況を確認するために従業員を監視している。たとえば、EY(アーンスト・アンド・ヤング)はゲートのアクセスデータから出社状況を追跡している。バッジシステムはセキュリティ対策として導入されたものだが、グーグルやアマゾンなどはバッジのスワイプで従業員を監視している。JPモルガンのように、従業員に所在の記録を求める企業もある。TikTokでさえ、「MyRTO」という社内アプリでオフィス滞在時間を監視している。 しかし、これらの仕組みでは出勤状況しか把握できず、効率性や生産性は測れない。ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された研究によると、電子監視はパフォーマンスの低下につながるという。監視されると、従業員は管理されすぎていると感じ、不満や不信感を抱くようになる。その時点で信頼が損なわれ、士気は低下する。 ■オフィス回帰の義務化でエンゲージメントと生産性が低下 Great Place to Workの調査によると、オフィス回帰の義務化は従業員のエンゲージメントを低下させる。「resenteeism(リセンティーズム、不満を抱えながらも仕事を続ける状態)」と呼ばれるこの現象は、従業員のモチベーション低下に直結する。 4400人以上の米国人従業員を対象とした調査では、勤務場所を選択できる従業員の方が、期待以上の成果を出し、良好な人間関係を築き、職場に満足している傾向が明らかになった。勤務場所そのものよりも、従業員が勤務形態について発言権を持っているかどうかのほうが重要なのだ。企業が勤務場所を強制すると、オフィス勤務でもリモート勤務でも生産性は低下する。ピッツバーグ大学の研究でも、オフィス回帰の方針は業績や企業価値の向上に寄与しないという結果が出ている。 ■オフィス回帰の方針は人材獲得を困難にする 現代の職場では、柔軟な働き方はもはや福利厚生ではなく、必須条件だ。オフィス回帰の方針は、柔軟なスケジュールやワークライフバランスを求める候補者を遠ざけ、人材プールの縮小につながる。Unispaceの「Global Workplace Insights」レポートによると、オフィス回帰を義務づけている組織の約3分の1が採用に苦労している。また、この方針は女性、高齢者、障害者などを疎外し、ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みを阻害する可能性もある。遠隔地に住んでいる、あるいは転居が困難な人々も、機会を奪われてしまう。フルタイム勤務を強いることで、そのような人材が手の届かない職務に応募することをあきらめてしまうのだ。 データが示す通り、オフィス回帰の義務化はエンゲージメント、士気、生産性、定着率を低下させ、企業の利益にもつながらない。従業員をオフィスに強制的に戻すのではなく、彼らの要望やニーズに耳を傾け、共に最適な解決策を見つけるべきだ。そうすることで初めて、全員にとって有益な、信頼と尊重の文化を育むことができる。
Caroline Castrillon