SNSはマイナス面だけじゃない。家にいながら世界の解像度を上げられる
家にいながら世界の解像度を上げ、子育てをすることで意識をアップデート
また、収録されている「パティオ8」という作品には、ワンオペ・ママ友グループが一致団結して、子どもたちの遊び場を取り戻す様が描かれています。実際、柚木さんのまわりでも、家から一歩も出ないで、友達の困りごとのために探偵みたいなことをしていた人たちがいたのだとか。 「SNSを駆使したり、それぞれの得意分野を活かし、それを全部LINEで共有して、探偵もびっくりな活躍をしたそうです。私も家から出ずして、いろんな方、年下の子などから相談を受けたり、個人的なお話を聞いたり、世界じゅうのいろいろな職業の人と喋ったおかげで、逆に世界の解像度が上がった気がします。 なんでこんなに外食したいのだろう、外食ってすごいなとか、コロナ禍のおかげで世の中のことが見えてくるようになったかも。たとえば好きな2000年代のカルチャーにしても、『SATC(セックス・アンド・ザ・シティ)』がすごく白人中心社会だったということにも全然気づいていなかったし、本当に世の中のことをちゃんと考えていなかった。 今日本でもどんどん格差が開いていて、なにも悪気がなくても人を踏んでしまっているようなことが多々あります。でも、そう考えるようになったのは、子どもを産んだここ5年くらい。きっと恵まれていたから、すごく差別や格差に無頓着だったんでしょうね。育児をするようになって、初めて自分もこの社会に責任があるという風に実感したのだと思います」
「女性って怖い」と思われたくなくて、小説を書いてきた
これまで数々のヒット作を生み出してきた柚木さん。作家デビューをしたときには、「女性の人間関係の話を書きたかった」といいますが、それを表現するまでにさまざまな葛藤がありました。 「やっぱり、『女子校の友情はすぐいじめに代わる』といった感じで、『女怖い』みたいな読み方をされていました。その『怖い』みたいなところから、どうにかして逃げるために『ランチのアッコちゃん』を書き、『女同士はいいものだよ』みたいに、とにかく女の人のネガティブキャンペーンならないように、10年間試行錯誤をしていたというのが本当のところです。 女性同士の人間関係を“いいもの”だと思って書いてはいるけれど、じつはそれは私が書きたいことじゃない。うまくいかないときもあるし、すごく仲がよかったのにこじれちゃうときもある。でもそれはだれも悪くない。本当はそういうことが書きたかったんです。 東京オリンピックの開催あたりから、ものすごく日本でジェンダーの話が進みましたよね。今まで女のドロドロみたいに語られていたようなことが突然なくなった気がします。『フェミニズム』って言葉にしても、私がデビューしたころは曖昧な表現が使われていたような気がしますが、今ではメディアで当たり前に使われるようになりました。 おそらく、みんなが普通に生活していても国際的な人権感覚みたいなものがなんとなくわかってきて、『あれ?』って思うことが、みんな増えたんじゃないかな。私の小説も、『シスターフッドですよね』とか『フェミニズムですよね』って、読者の方をはじめとして言っていただけることが、この数年で増えました。だから最近は『自分の創作活動はこれから始まる』って思っています」 いろいろな情報を手軽にキャッチできるようになったからこそ、読み手の“アップデート”がされ、それに自分も学びを得ていると笑顔で教えてくれました。
ESSEonline編集部