「障害者も子どもを持つ権利がある」日本にはない支援団体がアメリカでは40年前にできていた 当事者カップルや親子に会ってみて分かったこと
北海道にある知的障害者向けグループホームで入居者が不妊手術・処置を受けていたことが昨年、明らかになった。日本では知的障害者が結婚や出産を希望しても、周囲から反対や制限を受けることがまだよくある。では、海外ではどうなのだろうか? 米国では、障害者の子育て支援に特化した団体が40年以上前からあるという。日本では、そんな団体は聞いたことがない。どんな活動をしているのだろうか。当事者のカップルや親子はどうやって暮らしているのか。現地を訪ねてみた。(共同通信=市川亨) ▽知的障害の親を支援する手引を20年以上前に作成 米国西海岸サンフランシスコ近くにあるバークリー市。1960年代に障害者の自立生活運動が始まった町だ。 その運動の流れをくみ、1982年に誕生したのが「スルー・ザ・ルッキンググラス」(TLG)という団体。障害がある親を支援するNPOで、国際的にも知られる。障害のある子どもがいる代表のメーガン・カーシュバウムさん(81)が夫と共に設立した。
「私は『子育ては障害者の権利の新しいフロンティアだ』と言い続けてきました」。カーシュバウムさんはそう話す。 TLGには臨床心理士や福祉職ら約60人の職員がいて、家庭を訪問して育児を援助したり、専門職の研修などをしたりしている。さまざまな障害者を対象にしているが、知的障害についても支援の手引書を20年以上前に作成した。障害の程度にもよるが、カーシュバウムさんは「適切な支援があれば、子育てはできる」と明言する。 ▽動画を撮って褒める。家で一緒にやる その手法は極めて実践的だ。その一つが動画撮影。親が子どもと遊んでいる様子などをビデオに撮り、うまくできた場面を専門職が親と一緒に見て、褒める。 周囲からおとしめられる経験をしている人が多いため、まずは親の自己肯定感を高め、信頼関係を構築する狙いがある。 もう一つ重視しているのが「家で一緒にやる」ということだ。例えばどこかの施設で訓練しても、自宅とは環境が違うし、知的障害のため忘れてしまうこともある。さらに、子どもが親に敬意を持つよう、専門職が代わりにやるのではなく、なるべく親自身にやってもらう。