『クワイエット・プレイス:DAY 1』は“役者猫”が大活躍!聖地NYでマイケル・サルノスキ監督が語る
「音を立てることが禁断の世界で、人間はどうサバイバルするのか」という秀逸なコンセプトでヒットを飛ばしている「クワイエット・プレイス」シリーズの最新作『クワイエット・プレイス:DAY 1』(公開中)。音を立てると何者かに突然襲われる恐怖に人々が立ち向かった“Day 1”を描いたマイケル・サルノスキ監督に、物語の舞台となった“世界一うるさい街”ニューヨークでインタビューを敢行した。 【写真を見る】大都市ニューヨークが、“彼ら”の手によって廃墟同然に… ■「ルピタ・ニョンゴが参加してくれたことは、いまだに信じられません」 本作では『クワイエット・プレイス』(18)、『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(21)で監督と出演を兼任したジョン・クラシンスキーは製作と共同脚本にまわり、『ピッグ/PIG』(22)で初監督・初脚本を務めたサルノスキが大抜擢された。『ピッグ/PIG』を観たクラシンスキーが、「この映画のタッチを『クワイエット・プレイス』の世界に持ち込んで欲しい」と、サルノスキ監督に白羽の矢を立てたそうだ。 サルノスキ監督は、「ジョンはまず、『普通の前日譚を作るのではなく、君らしい、君のなかから出てくるアイデアで作品を作りましょう』と言いました。それを聞いて、とても興奮しました。新人監督の私に、自分らしさを模索する自由を与えてくれたのですから」と語る。そして、サミラ(ルピタ・ニョンゴ)のキャラクターと彼女の人生について考え始めたという。「自分自身も、サミラがこの恐ろしい経験を経てどんな境地に辿り着くのかにとても興味を持ちました。ジョンに『君らしさを』と言われた時に、自分がどんな映画を作りたいのかを考えました。そして、私はジャンル映画の文脈のなかで、予想外の感情が生まれる瞬間を描きたいんだ、と気づいたんです」。 常に喧騒に包まれているNYの街から音が消え、人々が未知の恐怖に怯えるなか、猫のフロドを連れたサミラは、同じく一人でNYの街を彷徨っていたエリック(ジョセフ・クィン)とともに、瓦礫で覆われたマンハッタンをサバイブすることになる。2人と1匹のケミストリーこそ、サルノスキ監督が人気シリーズに持ち込んだ“彼らしさ”であり、今作が単なる前日譚を超えた傑作になり得た理由だ。 この2人(と1匹)のキャスティングは、サルノスキ監督にとっても最重要項目だった。「ルピタが興味を持って参加してくれたことが、いまだに信じられないくらいです。サミラ役は肉体的にも精神的にも、演じるためにさまざまなものを掘り起こして役作りをしないとならなかったと思います。ジョセフが演じたエリック役も、肉体的にかなりハードな役です。そして2人とも、台詞があまりないなかで多くの感情や深みを持たせなければならない、過酷な役だと思います。おっしゃるように、2人のスクリーン内での相性はすばらしかった。それは2人が演じた役柄をとても大切に思い、ケミストリーとして画面に現れているからだと思います」と、2人のキャラクターへの理解度と献身的な役作りに最大の感謝を述べていた。 ■「猫のフロドのシーンには、一切CGを使っていません」 もちろん、猫のフロドについて聞かないわけにはいかない。フロドは2匹の“俳優猫”シュニッツェルとニコが演じていて、猫のシーンでCGは一切使っていないという。サルノスキ監督が俳優猫たちとコミュニケーションを取れるようになるまで、相当の時間を要したと告白する。 「シュニッツェルとニコ、そしてそれぞれに有能なアニマルトレーナーがついていました。彼らは猫たちの能力を最大限に引き出す方法を熟知していて、猫たちに私たちが求めていることをしてもらうには、彼らが好むスペースと時間が必要だと教えてくれました。撮影の過程で、それぞれの猫たちはどんなことが得意で、どんなことに気を悪くするのか、徐々に学んでいきました」。 フロド役というキャラクターの役割を信じ、時間をかけて猫たちに役作りをしてもらうことが肝要だったそうだ。「フロドのシーンに、絶対にCGを使いたくなかったんです。なので、スクリーンに映るフロドは必ずシュニッツェルかニコのどちらかです。簡単ではありませんでした。思うように動いてもらうには、猫たちと一緒にかなりの時間を過ごさなければなりません。無理強いは絶対にダメです。リラックスした雰囲気を作り、相手の動きに身を委ねて撮影をするのは、いいトレーニングになったと思います。ルピタとジョセフの間に、もう一人生きているキャラクターが存在していることがすばらしい。本当に才能のある人たちと才能のある猫たちがいたから、大変ではありましたがやり遂げることができました」と、サルノスキ監督は猫演出について雄弁に語っていた。 ■「『ショーン・オブ・ザ・デッド』は心のなかで特別な作品です」 監督2作目にして、メジャースタジオのシリーズ作品に挑戦し、名実共に成功を手にしたサルノスキ監督。個人的にもっとも好きなホラー映画は『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)だそうだ。「ホラーというより、ホラーコメディというジャンルかもしれませんが、DVDの特典映像を何度も何度も見返しました。あの映画にはユニークで、とっつきやすい不思議な魅力があり、それがなんなのかを知りたかったからです。そして、エドガー・ライト監督がとても具体的なビジョンを持って作品作りをしていることに感銘を受けました。映画監督を目指す者として、彼がどのようにこの映画を作ったのか、その複雑な過程を見るのはとても魅力的でした。だから『ショーン・オブ・ザ・デッド』は、私の心のなかでずっと特別な位置を占めているんです」。 「次に作るとしたら、Day5くらいですかね」というサルノスキ監督。「『音を立てたら死ぬ』という基本的なコンセプトがすばらしいので、おもしろいキャラクターのなかに感情を見つけることができれば、いろいろな作品を作り続けられます。そして世界はさまざまなキャラクターであふれているのですから、選択肢は無限です」と、“クワイエット・プレイス・ユニバース”のさらなる広がりにも興味を示していた。 取材・文/平井伊都子