一度は引退が頭をよぎるも、新コーチや家族に支えられて10年越しの夢舞台へ――

おおほり・あや／’96年、福島県生まれ。五輪前最後の国際大会である６月のオーストラリアオープンを含め、今季２勝を挙げ、世界ランキングは自身最高となる10位まで急上昇。好調をキープしたまま、パリ五輪でメダルを目指す

「高校を卒業してから本当に、本当に長い10年間でした。夢だった舞台にやっと立てる。不安や緊張もありますが、やっぱり楽しみな気持ちが一番大きいです」 バドミントン女子代表・大堀彩　本誌に見せてくれた素顔【本誌未掲載カット】 バドミントン女子シングルスでパリ五輪日本代表の座を勝ち獲った大堀彩（27）は、感慨深げにこう語った。 近年の日本バドミントン界の躍進は目覚ましい。各種目にメダル候補がひしめくなか、女子シングルスの代表２枠は最後まで混迷を極めた。エースの山口茜（27）に続き、’16年のリオデジャネイロ五輪銅メダルの奥原希望(のぞみ)（29）を抑えて残る一枠を勝ち獲ったのは、長らく３番手に甘んじてきた大堀だった。 「内定の瞬間は、素直に信じられませんでした。五輪出場はキャリアの最終的な目標でしたから。お祝いの連絡が数百件きたことにも驚きました。でも５月の代表発表会見までは『何か落とし穴があるんじゃないか』って疑心暗鬼でした」 大堀の最大の武器は169㎝の長身から繰り出すスマッシュだ。その攻撃的なスタイルに加えて、整った顔立ちから若くして次期ヒロイン候補として注目を集めてきた。高校時代には『ライオンのミライ☆モンスター』（フジテレビ系）などのメディアに取り上げられては「天才少女」ともてはやされた。だが、人気は長く続かなかった。 「当時は正直、浮かれていました。注目されることが嬉しかった。でも、それに見合う実績があったわけじゃなかったんです。高校卒業後に実業団に入って、勝てなくなった時にマスコミの方々はサァ~~ッていなくなって（笑）。当時の自分に言ってやりたい。勝てなくても注目されるのは、若いからだぞって」 今でこそ笑って語れるようになったが、当時は大きな壁にぶつかっていた。 「勝てないって日々が続くなかで、自分の中でも葛藤が生まれてきました。年を重ねるにつれて、どんどん注目度が薄れ、反対に結果への焦りだけは強くなって。完全に自分を見失っていました」 社会人２年目の’16年には、よりハードな環境を求め、男子選手しかいない名門実業団『トナミ運輸』の門を、女子選手として初めて叩いた。男子と同じメニューで研鑽を積んだが、’21年、24歳の年にキャリア最大の挫折を経験する。 「前年末の全日本総合選手権で、過去最低の成績となる２回戦敗退に終わったんです。Ａ代表からも外され、国際大会への派遣も制限されるようになりました。これで東京五輪出場への夢は断たれました。周囲には『この１年で、自分が納得いけばどんな結果であれ、もういい。もう辞めたい』って伝えました」 ◆訪れた運命の出会い 好きなミュージシャンはナオト・インティライミで、試合前には必ず聴くという。オフの楽しみはユーチューブ鑑賞で、ファンだという女優の仲里依紗の動画はすべて鑑賞済みだ。コートを出れば、どこにでもいる20代の若者である。 競技から距離を置きたい――。大堀のバドミントン熱はどんどん冷めていったという。しかし、ある一つの出会いが大きな転機となった。 「’23年５月に日本代表コーチに就任された今別府香里さん（37）の存在は本当に大きかった。それまでは、自分とコーチの熱量が釣り合っていない感じがして、身近な存在なのに相談することはなく、全部自分で決めていました。でも今別府さんは私よりも分析に熱心だし、指摘も的確。初めてスッと話が腑(ふ)に落ちたんです」 Ａ代表にも復帰。昨夏からは今別府コーチと二人三脚で課題に向き合ってきた。 「弱点だった体力面の強化のため、練習では２倍近く重いトレーニングラケットを振り込みました。また、強みである後方からのスマッシュを活(い)かすために、中盤からネット前の球の捌(さば)き方も見直した。今別府さんのトレーニングは地味な反復練習が多く、とにかく”地獄”で（笑）。でも、自分が避けてきた部分でもあり、成長できている実感がありますね」 結果はすぐに出た。’23年10月にアジア大会で銅メダルを獲得。今年２月には、国際大会で10連敗中の奥原にも勝利した。 大堀にはもう一人、支えとなった人物がいる。高校時代の監督で、今は所属するトナミ運輸のヘッドコーチを務める父・均(ひとし)さんだ。 「父は私よりも私のコンディションに敏感な存在。試合中も今別府コーチとともに、的確なアドバイスをくれます。家では全然話さないんですが（笑）。それでもバドにおいては信頼していますね。 パリ五輪では、これまで支えてくれた方々への感謝をコートで示したいと思います。積み上げてきたことを信じて、攻めのスタイルを貫きます！」 多くの支えを受け、復活を果たした大堀が、飛躍の時を迎えようとしている。 『FRIDAY』2024年7月26日・8月2日合併号より