尹大統領、朴元大統領を弾劾した国民の「沸点」に近づく…レームダック到来か(1)
ソン・ハニョン先任記者の「政治の舞台裏」 支持率20%切る兆し…弾劾水準 経済・外交・安保・内政の総体的乱脈ぶり 夫人リスクにも「鉄面皮の鋼のメンタル」 在野・市民社会「政権退陣」掲げる
臨界点とは、物質の構造と性質が異なる状態に変わる時の温度と圧力を意味します。政治も同じです。民意が臨界点に達すると、あっという間に全く違う局面が繰り広げられます。韓国の憲政史で1960年の4・19革命がそうでした。3月15日の不正選挙後、李承晩(イ・スンマン)大統領が下野すると予想した人は多くいませんでした。沸騰した民意が臨界点を超え、最高権力者を権力の座から引きずり下ろしたのです。 1979年の10・26も同様でした。朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が最も信じていた部下の銃で撃たれて死ぬと予想した人はいませんでした。釜馬抗争で臨界点を越えた民意が劇的なドラマを作り出しました。 法律家たちは弾劾要件を「職務執行において憲法や法律に違反した時」(憲法第65条1項)と言います。正確に言えば、それは国会の弾劾訴追議決の要件です。弾劾は本来、国民の代表で構成された議会の権限です。韓国の憲法も「第3章 国会」で、弾劾を規定しています。国会が公務員を弾劾訴追すれば権限の行使が止まります。憲法裁判所の審判は国会の訴追が正当だったのか最終的に確認する手続きに過ぎません。 大統領の弾劾も同様です。大統領制の元祖である米国は、下院が大統領弾劾訴追を行い、上院で連邦最高裁判所長官を議長に弾劾の審理を行います。上院で出席議員の3分の2以上が賛成すれば、大統領は罷免されます。 ■朴槿恵元大統領弾劾政局の既視感 こうした原理を理解するには、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾過程を振り返る必要があります。チェ・スンシル国政壟断事件に憤った国民たちは、2016年10月から光化門(クァンファムン)でろうそく集会を始めました。当初は大統領の辞職を求める世論はそこまで高くはありませんでした。ところが、国政壟断の実態が次々と明らかになり、集会に参加する人々が爆発的に増えました。大統領の辞職を求める世論も高まりました。 12月3日、野党および無所属議員171人によって国会で弾劾訴追案が発議されました。韓国ギャラップが12月6日から8日にかけて実施した世論調査で、弾劾賛成の意見は81%、反対意見は14%でした。12月9日に無記名で行われた表決で、在籍議員300人の78%に当たる234人が弾劾訴追案に賛成票を投じました。世論調査の弾劾賛成率と似たような数値でした。国民の代表で構成された国会が国民の意思に従った結果でした。その後行われた憲法裁判所の弾劾審判は、国会の弾劾訴追議決を確認する手続きでした。「全員一致か否か」ぐらいが争点でした。結局、大統領弾劾は「職務執行において憲法や法律に違反」したかどうかに加え、大統領弾劾を望む国民世論がどれだけ高いかが重要です。 2024年4月の第22代国会議員総選挙の結果は、共に民主党175席、国民の力108席、祖国革新党12席、改革新党3席、新しい未来1席、進歩党1席でした。野党192議席は大統領弾劾訴追議決に必要な200議席に迫る数字でした。もちろん、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾に賛成する国民世論がそこまで高かったわけではありません。ですが、尹錫悦大統領は国民から強力な弾劾警告を受けたとみて良いと思います。 総選挙から5カ月が経ちました。尹錫悦大統領は総選挙前と変わりませんでした。むしろ国民と野党を叱咤しています。総選挙で勝った大統領であるかのように。尹錫悦大統領のこのような態度が国民の怒りを強めています。このままでは、いずれ大統領弾劾の局面に向かう臨界点に至るかもしれないと思われるほどです。 今月13日に公開した9月第2週の韓国ギャラップの世論調査で、大統領の職務遂行に対する支持率は20%、不支持は70%でした(中央選挙世論調査審議委員会のホームページ参照)。尹錫悦大統領就任以来、最悪でした。大邱(テグ)・慶尚北道はもちろん、最後の砦だった「70代以上」も崩れ始めました。不支持が48%で、支持37%より高かったのです。 ■第22代国会初の国政監査で嵐を予告 韓国ギャラップは27日、9月第4週の世論調査の結果を発表します。ここで大統領職務に対する支持率が10%台に下がれば、政権崩壊の恐れがあるといえます。朴槿恵元大統領は国会の弾劾訴追直前、韓国ギャラップの支持率が4%まで下がりました。大統領の支持率が墜落を止め、反発するには好材料が必要です。ところが、経済指標はますます悪化しています。外交・安全保障にも良いニュースはありません。ハン・ドンフン代表が主導する与野党の政府協議体は、何の音沙汰もありません。 最近はむしろ「(大統領夫人)キム・ゴンヒ女史リスク」が再び浮上しています。大統領にとって、家族は存在そのものが脅威となる要因です。国民は大統領を選出したのであって、大統領の家族を選出したわけではないからです。歴代のすべての大統領が家族と親戚の問題で頭を悩ませてきました。金泳三(キム・ヨンサム)元大統領と金大中(キム・デジュン)元大統領は在任中、息子が拘束される恥辱を経験しました。 キム・ゴンヒ女史は、尹錫悦大統領の逆鱗です。キム・ゴンヒ女史は大統領選挙前に学歴詐称疑惑についての国民に向けた謝罪で、「夫が大統領になっても、妻の役目だけを充実に果たす」と約束しました。ところが、それは真っ赤な嘘でした。監査院は秋夕(チュソク・旧暦8月15日の節句)連休直前の12日、大統領執務室・官邸移転監査結果を公開し、キム・ゴンヒ女史のコバナコンテンツの後援業者「21グラム」が(大統領執務室と官邸の改築を)受注し工事を実施したことは「特に問題にはならない」と免罪符を与えました。本当に特に問題がないでしょうか。 最高検察庁捜査審議委員会は9月6日、キム・ゴンヒ女史のブランドバッグ受け取り事件に対して不起訴を勧告しました。24日にはブランドバッグを渡したチェ・ジェヨン牧師に対してまた別の捜査審議委員会が開かれます。12日、ドイツモーターズ株価操作事件の2審裁判所は、キム・ゴンヒ女史のようにお金を出した資金提供者の幇助疑惑に対して有罪を言い渡しました。さらに最近では、キム・ゴンヒ女史が与党「国民の力」の公認に介入したという疑惑が浮上し始めました。あれこれと「キム・ゴンヒ女史リスク」は現在進行形です。このような状況なのに、大統領室は民意の悪化をものともせず、キム・ゴンヒ女史の広報資料と写真を休まず配布します。「鉄面皮」や「鋼のメンタル」とはまさにこのような時に使う言葉だと思います。 (2に続く) ソン・ハニョン政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )