「髭を剃らせろ」…Jブラジル人監督「お安い御用」と衝撃変貌、日本人と“馬が合った”英雄【コラム】
時間のルーズな一面も…「意識を変えてほしい」の声で柔軟に対応
そんな愛嬌たっぷりの指揮官だが、唯一、時間にルーズなところが玉に瑕だったようだ。チーム編成の統括責任者としてセレーゾ監督を多岐にわたってサポートした鈴木満強化アドバイザー(当時・強化部長)が、こう回想する。 「ブラジル人特有といってしまうと語弊がありますが、時間に対する感覚が本当にアバウトで、のんびりしていましたね。例えば、朝10時から練習を始めるとなったら、日本人選手なら5分間とか10分前にグラウンドに出て、いつスタートしてもいいように準備しています。それが当たり前ですが、セレーゾは10時前にクラブハウスにいてもグラウンドに出ていなかったり、“何しているの?”と思うことがたくさんありました(苦笑)」 一事が万事、チームの始動当初は、こんなやり取りがしばらく続いたそうだ。 「ある日、10時になってもグラウンドに出ないで、監督室にいたので、“どうしたの? 練習時間じゃないの?”と尋ねると、“今日のトレーニングプランを、もう一度、整理しているところだから、少し待ってくれ”と。さらに“5分、10分、遅れてもそんな大きな問題じゃないないだろう? トレーニングは監督がグラウンドに行ってから始まるものなんだ”と、まったく意に介していませんでした。でも、そんな感覚でいたら日本の選手たちに受け入れられないし、示しもつかない。そこの意識を変えてほしいと、セレーゾに随分言いました」 決められた時間を守ろうとする日本人、片や時間に鷹揚なブラジル人。国民性や社会性、慣習に違いがあるのだから、まあ、仕方がない。異文化交流におけるあるある……などと笑っていられない。鈴木強化アドバイザーは監督と選手の間に無用な摩擦が生じないよう、信頼関係が崩れないよう、あれこれ腐心したという。 「“セレーゾ監督にブラジルとの交渉事を頼んだので、今日の練習は15分ばかりスタートが遅れるから”と口実をつけたり、何だかんだ取り繕って、チーム内が変な空気にならないように気をつかいました」 あれだけ時間にルーズだったセレーゾ監督も徐々に意識が変わり、「日本で一番学んだのは“時間を守ることの大切さだ”というまでになっていました」と、鈴木強化アドバイザーは当時を懐かしむ。 「頑固なタイプではなく、考え方が柔軟で、周りに気を配るし、細やかな配慮ができる人。選手が怪我をして入院すると、1人でもお見舞いに行ったりしていました。現役時代から素晴らしい実績を持っている人ですが、自分を大きく見せようといった虚栄心がなく、誰彼かまわず、フランクに接していました。私自身、すごく馬が合ったし、本音で向き合える監督でした」