モードスタイル × 小津夜景、キム・ソヨンの名文で描く「凜として、のびやかに生きる姿勢」
どんな時代にあっても自由闊達に、自分らしく在り続ける─。2024-’25秋冬コレクションを彩る服と書評家・石井千湖の選ぶ女性随筆家の作品が交錯し、人生を拓くしなやかな精神を映し出す モード×女性随筆家の名文で描く「凜として、のびやかに生きる姿勢」(写真)
ひるねのとき、香水をつかう。 ──『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』「ひるねの作法」より 2024-’25秋冬ミラノ・コレクションで発表されたショーに登場したのは、1980~90年代にアルマーニのミューズを務めたジーナ・ディ・ベルナルド。記憶に鮮やかに残る彼女の香りたつような香水の広告ビジュアルが、ブランドの豊かな歴史の旅へと誘う。 ケープ¥264,000・シャツ¥418,000・パンツ¥264,000・靴¥181,500ジョルジオ アルマーニ ソックス¥9,900(参考価格)/コーギー ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL.03-6274-7070 ホームステッド リミテッド TEL.03-6455-4460 小津夜景「ひるねの作法」 『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版)所収 フランス在住の俳人・小津夜景が、魔法のような筆運びで、「ひるね」という漢詩と、ひるねのときにしている香水遊び、ボードレールの香気ただよう詩「交感」をつなぐ。文庫本にしみこませたダークブルーという香水を味わい、詩の世界が脳裏に広がるくだりに陶然としてしまう。読んでいると自分の好みの香りを探りたくなり、ひるねもしたくなる。「交感」と「ひるね」をていねいに読み解いた後半は、知的好奇心が刺激される。さまざまな言葉、さまざまな時間を絶妙なバランスでブレンドした、この文章自体が贅沢な香水のようだ。
身も心もすりへる瞬間瞬間にかろうじて残された温度を、一握り、灰を掴むように詩に込める。 ──『奥歯を噛みしめる 詩がうまれるとき』「間隙の卑しさの中で」より 「ANGER─怒り」をテーマにしたエモーショナルな2024-’25秋冬コレクション。世界のあらゆることに対しての、そして自分への怒りを表現した。フェイクレザーのピースを毛糸でつなぎ合わせたトップスには人間らしい有機的な息遣いが感じとれる。素材の異なるブラックが心の機微を語るかのよう。 セーター¥72,600・Tシャツ(参考商品)/コム デ ギャルソン TEL.03-3486-7611 キム・ソヨン「間隙の卑しさの中で」 『奥歯を噛みしめる 詩がうまれるとき』(かたばみ書房)所収 自分のなかの世界を変えてくれるような詩は、既成概念への反逆から生まれるのではないか。「間隙の卑しさの中で」は、韓国の詩人キム・ソヨンのエッセイだ。詩を書く過程を「口を封印したまま体で叫ぶ悲鳴」のような文章で綴っている。繰り返し出てくる「間隙」とは何なのか、わかりやすい説明はない。ただ詩人はノートをめくり、もがきながら言葉をつかみとろうとする。美しさから得体のしれぬ生臭さが漂うまで、苦しみが卑しさの別の顔だとわかるまで、決して安易なところで妥協しない。格闘した先に不思議な解放感がある。 BY ASAKO KANNO, STYLED BY TAMAO IIDA HAIR BY JUN GOTO AT OTA OFFICE, MAKEUP BY KANAKO YOSHIDA MODEL BY MAE AT BRAVO MODELS, SELECTION OF BOOKS & REVIEW BY CHIKO ISHII 石井千湖(いしい・ちこ) 書評家、ライター。大学卒業後、8年間の書店勤務を経たのち、書評家、インタビュアーとして活動を始める。新聞、週刊誌、ファッション誌や文芸誌への書評寄稿をはじめ、主にYouTubeで発信するオンラインメディア「ポリタスTV」にて「沈思読考」と題した書評コーナーを担当。著書に『文豪たちの友情』(新潮文庫)、『名著のツボ 賢人たちが推す!最強ブックガイド』(文藝春秋)、『積ん読の本』(主婦と生活社)(10月1日発売予定)。T JAPAN webにて連載中のブックレビュー「本のみずうみ」も好評。