混迷の時代における芸術の役割とは? 第35回世界文化賞受賞者ら集う
1988年に設立され、世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第35回受賞者たちが一堂に集う記者会見がオークラ東京で行われた。 世界文化賞は、1887年に設立された公益財団法人日本美術協会の設立100年を記念し、前総裁・高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」という遺志を継いで創設されたもの。毎年、世界の芸術家を対象に絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5部門において受賞者が選ばれ、それぞれに感謝状、メダル、賞金1500万円が贈られる。 1989年以来、高松宮殿下記念世界文化賞では35ヶ国180名の受賞者が選ばれており、オラファー・エリアソン、 アイ・ウェイウェイ、妹島和世+西沢立衛/SANAA、ウィレム・デ・クーニング、デイヴィッド・ホックニー、李禹煥、草間彌生、杉本博司、三宅一生、 アントニー・ゴームリー、ジェームズ・タレルなどが名を連ねている。 受賞者はソフィ・カルら5名 今年の受賞者は、ソフィ・カル(絵画部門)、ドリス・サルセド(彫刻部門)、坂茂 (建築部門)、マリア・ジョアン・ピレシェ(音楽部門)、アン・リー(演劇・映像部門)の5名。加えて、今年で第26回となる若手芸術家奨励制度の対象団体としても同時に発表され、コムニタス・サリハラ芸術センターが選ばれている。 絵画部門を受賞したソフィ・カルは1953年フランス・パリ生まれ。フランスを代表するコンセプチュアル・アーティストのひとり。三菱一号館美術館のリニューアルオープンを飾る「 再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」(11月23日~25年1月26日)も予定されている。 彫刻部門のドリス・サルセドは1958年コロンビア・ボゴダ生まれ。力、喪失、記憶、痛みをテーマに、そのメタファーとして椅子など木製家具や衣類、花びらといった身近な素材を再利用・再構築しながら表現しており、2014年にはヒロシマ賞を受賞。現在は、ウクライナ、ガザ、シリアのような場所で目撃される「被害者を苦しめ、強制的に移住させることを目的とした、故意による家の破壊」を扱う、人間の髪の毛を使った作品を制作している。 建築部門の坂茂は1957年東京生まれ。「紙管」を使った革新的なデザインで建築の世界で新たな地平を切り拓いた、日本を代表する建築家のひとり。また世界各地で被災地支援活動を継続的に行うなど、「行動する建築家」として高い評価を得ている。2014年には「建築界のノーベル賞」と呼ばれるプリツカー賞を受賞。ミュージアム建築としては、 ポンピドゥー・センター メスや大分県立美術館、下瀬美術館、豊田市博物館などを手がけてきた。 また音楽部門の受賞者であるマリア・ジョアン・ピレシュは、現代を代表するピアニストのひとり。1999年には、農村出身の子供たちのための合唱団、実験的なコンサート、プロ・アマを問わないアーティストのためのワークショップを展開するベルガイシュ芸術センターをポルトガル東部に設立している。 演劇・映像部門の受賞者であるアン・リーは、アメリカ中心に活動する台湾生まれの映画監督。洋の東西を問わず、時代の奔流と向き合う人間を描く芸術性と、多くの観客を引きつける娯楽性を両立させた作品を生み出し、世界的な名声を得ている。男性同士の「愛」を描いた『ブロークバック・マウンテン』(2005)でアカデミー賞監督賞を初受賞。この作品と、日本軍占領下の上海を舞台にしたスパイ映画『ラスト、コーション』(2007)でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を2度にわたり受賞した。
文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖編集長)