直木賞の真藤さん 東京出身「覚悟決め」沖縄の物語書き切る
平成最後となる第160回直木賞が16日夕、発表され、真藤順丈(じゅんじょう)さん(41)の「宝島」が選ばれた。受賞会見では「ノミネート発表から、ずっと長いドラムロールを聞かされているような気がした。今日はそれが一際うるさかったが、とにかくほっとした」と喜びを語った。 【動画】第160回芥川賞に上田・町屋さん、直木賞は真藤さん 3人が受賞会見
沖縄には「常に日本人が考えるべき問題がある」
1977(昭和52)年東京都生まれ。2008(平成20)年に「地図男」で第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞してデビュー。直木賞は初ノミネートでの受賞となった。「他にも受賞に値する作家の方がおり、僕自身はまだまだ未熟だと思っているが、作品自体は多くの人に読んでもらいたい気持ちがある。直木賞の受賞によってその機会が増えると思うので、本当にうれしいです」と話した。 受賞作は、第二次世界大戦後、米軍統治下の沖縄が舞台。「沖縄の問題は現代に重ね合わせられる。いろいろときな臭くなるなかで、当時の沖縄を書くことで現代に照射できるのではないか」と考えたことを執筆理由の1つに挙げる。 構想7年、執筆には3~4年かかった。「書く覚悟を決めるまでに逡巡があった」。東京出身の自分が沖縄の小説を書くことにためらいを感じ、書けなくなった時もあったが、「沖縄の問題は複雑でセンシティブ過ぎるからといって腰が引けるのは、潜在的な差別感情ではないか」「小説としての形で心を響かせられるものを書ければ、沖縄にルーツのない自分でも普遍性をもたせられる」と考え、肝を据えて書き切った。 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題で、沖縄が注目を集める中での受賞。「沖縄に注目が集まるのは今に限った話ではなく、書き始めた時は普天間飛行場の県外移設ですごく議論がかわされていた。今が旬なのではなく、沖縄には常にわれわれ日本人が考えないといけない問題がある」と訴える。 選考委員の林真理子さんは、受賞作を突き抜けた明るさがあり、重苦しい小説になっていないと評したという。「この作品では語りが重要。語りが茶々を入れたり、合いの手を入れたりするこの文体は、途中で見つけた。書いていて辛い時も、この語りに助けてもらった実感がある」と振り返った。 自身はエンターテインメントの作家であり、文学という意識はあまりないという。「1つのジャンルにとどまらずに、青春小説であり冒険小説でもあり、ミステリーとしても読めるなど、たくさんの要素を持った小説を書きたい」と直木賞作家としての今後を見据える。 会見にはジャージと帽子の出で立ちで現れた真藤さん。帽子の意味について問われると「おしゃれです」と笑った。 (取材・文:具志堅浩二)