【アイスホッケー】五輪最終予選、日本0勝3敗。~イントロダクション~
「五輪の出場権がとれれば人生が変わる。 それを心から信じて戦っていた」(中島照)
中休みがあった後の9月1日は、最終日のイギリス戦。オリンピックはなくなったが、日本の五輪予選は終わらなかった。ちなみにイギリスはランキング17位。ここまで五輪予選は2連敗で、日本と同じく本戦出場を逃している。 FW大津晃介(栃木日光アイスバックス)はこう言った。 「デンマーク戦は延長にいった時点で、あ、俺はオリンピックに出れねえんだ…と思ってしまいました。でも、自分の年齢からいっても、へこむ姿は見せられない。1人1人どんな悔しさを持っているのか、それを見届けようと思ったんです。若い選手が涙を流して下を向いている選手もいたし、その中には、点を取っている選手もいた。その姿を見て、若い選手がここで経験を積んで、悔しい気持ちを伸ばしていけば日本代表は大丈夫だと思えたんです。僕はもうたまらなくなって、大丈夫だよ、次は4年後だと言って、1人1人を抱きしめました」 1ピリはイギリスが3連続得点。しかし、1ピリ後の休憩が終わると、日本は見違えるように変わった。 22分、ニュートラルからエントリーした大津晃が、そのまま左から切れ込んでいってファインゴール。 36分、Оゾーン右からFW大澤勇斗(横浜グリッツ)がワイドリムを使って、左DFの佐藤大に。佐藤大が左から相手ゴールの裏を通すパスを出して、ゴール右に詰めていた古橋がフリーで決めた。アメリカンフットボール風に言えば「デザインされたプレー」。これで1点差に迫った。 3ピリ、日本はPPが2回。この日はデンマーク戦と違って6人攻撃を仕掛けた。しかし、ゴールを奪うことはかなわなかった。 平野はこう証言する。 「最後の攻撃で、いつもと違うポジションにつけというベンチからの指示がありました。僕もそうですが、それに選手が対応できなかった部分はあると思います。ただ、練習してきたのとは違うやり方でスコアできなかったというのもあると思う。五輪予選は、準備がすべてです。時間なのか、努力なのか。それをもっと改善していかなければならないと思います」 2-3とイギリスに敗れた日本は、勝ち点「1」のまま全日程を終えた。最終戦ではデンマークがノルウェーを破って、イタリア・ミラノの本大会に出場することになった。 代表選手の話を聞いて、いくつか感じたことがあった。 日本はこの大会で、多くがダンプやチップで敵陣に攻め込んでいたが、高い確率で、パックキャリアがエントリーしたシーンから得点が生まれているということ。 もしかしたら、選手とスタッフの間に、考えの相違点があったかもしれないこと。 選手は「日本代表」に、年齢を問わず並々ならない愛着と誇りを持っていること。 そして「オリンピックに行けばアイスホッケーは変わる」と信じて、日本代表は全員、戦っていたということだ。 デンマーク戦の延長でシュートがポストに当たり、決勝点を逃した佐藤優は話している。 「大会が終わって、僕らは悔し涙を流していました。でも、みんな熱い選手だったし、勝ちを目指して本気で戦っていたというのは、誇りにしていいと思います」 中島照は「(平野)裕志朗さんが言っていたのは、オリンピックの出場権がとれれば俺たちの人生が変わるよ、ということでした。オリンピックに行くことが決まれば、メディアだったり、ホッケー環境が変わっていく。みんなが、そう思ってやっていたんです」。 8月29日から9月1日までの4日間、日本代表の五輪最終予選での成績は0勝3敗だった。いずれも接戦だったが、「惜しかった」「残念だったね」だけで片付けるのは違うんじゃないか。今はそんな気がしている。 忘れてはならない2024年夏の日本代表の「声」。それを集める旅に、これから出かけてみようと思う。
山口真一