【小栗基裕×海路】“ダンスの偉人”と“舞台の異彩”が共鳴した理由
海路さんの頭の中が気になった
――その作品を生み出した海路さんが、昨年上演の『檸檬』で「第29回劇作家協会新人戯曲賞」を受賞された注目の存在であり、しかも1999年生まれの若手だと知って驚きましたか? 小栗 もちろん、びっくりしました。でも、どの世界でも若い人ほど尖っているし、面白いモノを作りますよね。僕は30代後半なので、若さに対する憧れや漠然とした嫉妬も抱きつつ、でも、それ以上に海路さんの作品をもっと観たいと思ったし、頭の中でどんなことを考えているのか知りたくなりました(笑)。 ――では、海路さんはもともとs**t kingzや小栗さんにどんな印象を持っていましたか? 海路 僕がs**t kingzさんの公演に行かせてもらったのは昨年の『踊ピポ』が初めてで、それはもう、圧倒されました。ダンスの迫力やお客さんを巻き込む熱量はもちろん、照明の見せ方もすごくかっこよくて。しかも驚いたのは、ダンス以外の演出もセルフプロデュースされていること。僕も舞台演出の大変さは知っているので、ひたすら尊敬の念を抱きました。
小栗さん出演の『ある都市の死』に衝撃を受けた
――今回、新作の舞台『空夢』に小栗さんを主演として迎えた理由とは? 海路 もともと小栗さんは俳優として活動されているので、お芝居をされている姿がイメージしやすかったのですが、昨年12月の『ある都市の死』という舞台に衝撃を受けてしまって。第二次世界大戦時のポーランド史を追っていく物語で、ダンスもあり、セリフの量も多くて。とんでもなく難易度の高い表現を軽々とやっているように見えたんですよ。 小栗 公演が終わった後に海路さんと少しお話できたのですが、めちゃくちゃ感動を伝えてくれましたからね(笑)。「すごいっすね!」って。 海路 他にも小栗さんが出演されている作品を拝見させていただくうちに、今回の舞台の世界観と小栗さんのイメージが重なる気がして、「ぜひ出てください」とオファーさせていただきました。 小栗 声をかけてもらえて嬉しかったですね。初対面の日も熱心に自分のことをたくさん語らせてもらったのですが、それが響いているかわからなかったし、むしろ裏側の部分を見抜かれているような気もして、こんなに早くご一緒できるとは思っていなかったんですよ。海路さんが作る不思議な世界に飛び込めることを知って、ワクワクとソワソワが混ざった変なテンションになりました。 ――今回の『空夢』は、「同級生の街」を舞台に、同級生が1人多かったことに気づいたところから、徐々に様子がおかしくなっていく男女と、その街を描いた物語。今日の取材時点で台本の初稿が仕上がったばかりだと聞いたのですが、小栗さんは読んでみてどんな印象を抱きましたか? 小栗 「え、そういう方向になるの!?」という驚きが大きかったですね。事前に数行のあらすじを読んでから台本を開いたのですが、物語の展開が予想外でした。で、改めてあらすじを読み返したら、まったく印象が変わっていて、他では味わえないような読書体験でしたね。社会に対する問題提起やメッセージを直球でわかりやすく投げかけるタイプの作品ではないと思いますが、それでも心の中に複雑な感情が渦巻いてきて、それがジワジワ余韻として残る。そこが海路さんならではの作品だなと思いました。