「様変わりした町になじめない…」人が戻らない東日本大震災の被災地、揺れる住民の心 かさ上げ工事で生まれ変わった岩手県陸前高田市 若手カメラマンが訪ねた
一部の建物を残し、無慈悲に流された家々。発災後、岩手県陸前高田市で撮られた写真には、一変した旧市街地の様子が写る。8年以上かけ、被災地最大級のかさ上げ工事で生まれ変わった町の景色は、ここで生きる人の目にどう映ったのか。(共同通信=内藤界) 【能登半島地震】自主避難の男性「ふるさとを裏切ったのでは」 避難所のうそ、今も罪悪感
▽湧かない愛着 中心部の高田地区を歩いた。新しい大型商業施設や飲食店、公園が隣接し、週末は多くの人でにぎわう。都市部さながらの景観は災禍を感じさせない。ここが海抜約10メートルにかさ上げされた場所とは想像もつかなかった。 臼井和賀子(うすい・わかこ)さん(76)は津波で養父を亡くし、近くの災害公営住宅で独り暮らす。長年養父らと暮らした自宅は津波で流され、その跡地にこの公営住宅が建っている。かつて2階建てだったわが家は、7階に。窓からは空き地の中に新築の住宅がぽつぽつと並ぶ光景が広がる。 内陸に住む息子のもとへの移住も考えたが、高齢になった今から新しい地で暮らす自信はなかった。公営住宅はスーパーや市役所も近く生活に不自由はないが、様変わりした町にまだなじめない。「失ったものが多くて愛着が湧かない。家族に家、友達…。でも、ここで生きていかないとね」 ▽復興事業 震災による死者・行方不明者が1800人を超える陸前高田市。岩手県の自治体最悪の被害で、約2万4千人だった人口は現在1万7千人台に落ち込んだ。
市は防災対策として1600億円あまりを使い、被災した宅地などを再編する土地区画整理事業を進め、約300ヘクタールにわたり市街地のかさ上げや高台整備を実施。東日本大震災級の津波からまちを守るべく着工した工事は8年以上を要し、自宅跡地での再建を断念した人も多かった。 2023年の地権者への意向調査では宅地56・4ヘクタールの6割で利用予定がなく、空き地の活用が課題になっている。 ▽戻らぬ人 川を越え、写真が撮影された今泉地区に向かった。道路に沿って多くの電柱が空に伸びる。その供給先は点々と立つわずかな民家だ。 「もう誰も戻ってこないな…」。空き地が広がる自宅跡で、菅野日出男(かんの・ひでお)さん(75)がつぶやく。津波で父親を失い、自身も体調を崩して4期務めた陸前高田市議を引退。無事だった妻と母親を安心させようと、自宅は震災から1年立たずに別地区の高台に再建した。 時折自宅跡地を訪れ、かつての町並みと今の景色を重ねるが、むなしくなるばかりだ。今後もこの土地を使う予定はない。空き地でも発生する固定資産税や草刈りが負担に感じ、手放したいと考えている。「昔は住民も多く、みんな子どもの頃から顔見知り。祭りや行事は盛り上がったんだ」