標的の癌細胞だけを免疫システムが狙い撃ち...進化型AIを駆使した「新たな癌治療」とは?
小型ロボットラボの迅速性
インシリコ・メディシンのロボットラボ「ライフスター・ワン」は、6室・約150平方メートルを完全に自動化されたAIが運営する。同社はこれを2室の移動式ユニットに小型化して病院に設置し、患者の腫瘍のプロファイルを基にパーソナライズした治療法を提供するというプロジェクトを進めている。 ヒトの組織培養物や実験用マウスで治療法を試験し、その際の化合物の合成などの作業は全てロボットが行う。効果的な対症療法を迅速に提供する手法として、医師に「3次元チェス」で癌に勝つチャンスを与えるだろう。 癌医療はここ数十年で多くの失望を味わってきた。非現実的な理想を追いかけていると思えるときもある。だが、大きな進歩も遂げている。 アメリカの癌死亡率(年齢調整後)は20世紀の大半を通じて着実に上昇し、1991年には10万人当たり215人とピークに達した。それが2020年には約144人と33%低下。死亡者の数で見ると29年間で約380万人減っている。その一因は喫煙の減少だが、もう1つ、治療の進歩と早期発見が挙げられる。 ディアスとシャーマは、癌の死亡率を下げる最善の方法は早期発見にあると考える。癌細胞が変異を蓄積したり、微小環境に自らを閉じ込めたり、科学者が理解し始めたばかりの方法で偽装したりする機会がまだ少ない段階で、発見するのだ。 MSKCCの大腸癌の臨床試験のほかにもここ数カ月でいくつか臨床試験が行われ、一部の早期癌において、新しい免疫療法薬が予想よりはるかに効果があることが実証されている。 また、癌に関連する微小なDNA断片を、従来の手法で確認できる数カ月前や数年前の段階で血中から検出する感度の高い診断テストも開発されている。 FDAは、血液や唾液、尿などの体液から病気の予兆を示す異常物質を検出するリキッド・バイオプシーを承認している。死んだ腫瘍細胞や壊れた腫瘍細胞からも小さなDNA断片を検出でき、肺癌、乳癌、前立腺癌、大腸癌、卵巣癌などの固形腫瘍癌に関して、一部の癌治療の成功や病気の進行をモニターするために利用されている。 ただし循環系の腫瘍のDNA量は腫瘍が縮小するにつれて減少するため、癌のスクリーニングや診断に使うには、感度、信頼性、特異度、いずれも十分ではない。 それでも進行中のいくつかの早期臨床試験では、診断ツールとして有望であることが分かっている。さらに、AIが診断データの解釈に貢献しているケースもある。 免疫療法のアプローチが大半の癌患者にとって有効な選択肢になるのはいつ頃か、そもそも実現するかどうかは、まだ分からない。ディアスは懐疑的で、一部の癌は免疫療法に反応しない可能性が高いと考える。 一方で、ディアスのチームは最近、遺伝子検査を使って、リンチ症候群の患者が癌を発症する直前の状態であることを特定した。そして、治療的な免疫療法の手順を適用したところ、癌の発症自体を予防できることを確認した。 ディアスは自分の臨床試験で免疫療法の効果があった患者の幸運を祝う。「あの気持ちは何回でも味わいたい。本当に素晴らしい」
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)