Excelバケツリレーで資料作成──20年前と変わらぬ業務フロー、どう改善していくべきか?
ソフトウェア化=機械化
これは、ブルーカラー業務でいえば「機械化」にあたる。ヒトが汗水たらし、時間と労力を投入して行っていた作業のうち、機械にやらせることができる部分を機械化できれば、その部分はヒトがやらなくてよくなるから、他のことをやる時間ができる。 他のこと、とは要するに機械にやらせることができない、非定型の仕事のことだが、その筆頭は「機械に人間の知恵を付ける」という仕事である。それまで自分たち時間と労力を投入していた作業を機械にやらせることができるよう検討し、定型化し、機械に知恵を付けてやらせる。 ホワイトカラー業務でも構図はまったく同じだ。ヒトが時間と脳力を投入していた定型作業を、機械=ソフトウェアにやらせることができれば、ヒトはその分、他のことをやる時間ができる。他のこと、とは要するにソフトウェアにやらせることができない非定型の仕事だが、その筆頭は「ソフトウェアに人間の知恵を付ける」、つまり適切な設定値を与えて仕事をさせる、という仕事である。 どんな作業ならソフトウェアにやらせることができるのか? この問いにはいろいろな答え方ができるが、一番分かりやすいのは、「パッケージ・ソフトウェアによって自働化できる業務」だ。世の中にはさまざまなパッケージ・ソフトウェアが存在しているが、ここでは一例としてERP(統合基幹システム)を取り上げる。 要は、ERPが提供している機能なら、ERPにやらせることができる。ということは、ERPがやれる定型業務(をホワイトカラー社員にやらせること)の価値はゼロになった。だから欧米企業はこぞってERPを導入して、その部分をヒトから剥がしてERPにやらせ、ホワイトカラー社員にはそれ以外の非定型業務をさせるようになっていったのである。 Excelが存在しているがゆえに、電卓での計算をさせなくなったのと同じ構図である。ERPだけではない。それがどんな業務プロセスであろうと、定型でありソフトウェア化できる業務であれば、それらは全てソフトウェアに任せて4ゼロで処理させることができる。ソフトウェア化したら「価値がゼロ」になる業務であるにもかかわらず、それを社員にやらせ続けるのは、前回の記事で紹介したように、大野耐一氏がいう「人間性の尊重」にもとることになる。 もちろん、ソフトウェアといえど初期費用はかかる。従って、小規模な企業では相対的にその初期投資がしにくく、結果ソフトウェア化が遅れる傾向にあった。 一方、社員数が1000人を超えるような大手企業では、いったんソフトウェアに人間の知恵を付けて自働化させることができると、その恩恵が何十人、何百人、何千人もの社員に及ぶので、効果に大きなレバレッジがかかり、それは以後、半永久的に寄与する。よって特に欧米では大企業のホワイトカラーの生産性が高くなっていったのである。
著者情報:村田聡一郎
SAPジャパン株式会社 コーポレート・トランスフォーメーション ディレクター 外資系IT企業、スタートアップを経て、2011年SAPジャパン入社。「ITではなく経営目線から」を信条とし、顧客の企業変革に伴走する。 海外事例にも精通し、講演・執筆など多数。著書に「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか~日本型BPR 2.0」「Why Digital Matters? ~“なぜ”デジタルなのか」(プレジデント社)。SAP「COO養成塾」事務局長。白山工業株式会社 社外取締役。「合い積みネット」共同創業者。米国ライス大学にてMBA取得。
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