Excelバケツリレーで資料作成──20年前と変わらぬ業務フロー、どう改善していくべきか?
デジタルによるホワイトカラーの生産性革命(1):個人レベル
ここでいう「定型処理」とは、あるインプットを入れたら、アウトプットが一つに決まるプロセスのことだ。例えば数値の計算である。 かつては、そろばんや電卓を用いて計算が速く正確にできるというのは、特に経理など計算を伴うホワイトカラーにとって価値のある技能だったが、今ではそうするホワイトカラーはいなくなってしまった。Excelが一瞬で正確にやってくれるようになったからだ。 つまり、仕事の媒体が「デジタル化」された結果、ホワイトカラーの作業のうち定型化できる部分については、デジタルが「手間ゼロ、所要時間ゼロ、差分コストゼロ、間違いゼロ」(以後、「4ゼロ」とも称する)でいとも簡単にやってくれるようになった。 するとこの定型部分については、ヒトが時間と脳力を投入する必要がなくなり、ヒトはその分、定型ではない作業に時間を割くことができるようになっていった。
デジタルによるホワイトカラーの生産性革命(2):組織・企業レベル
しかし、ホワイトカラーの生産性革命の本当のインパクトは、個人ではなく、「組織の」能力の拡張、個人戦ではなく団体戦の方にある。 組織の能力の拡張とは何か? それは、「業務プロセスの定型化→デジタル化」だ。つまり、ホワイトカラーが関わる業務プロセスのうち定型化しデジタル化された部分は、それが何であろうと4ゼロで処理されるようになったこと、である。 業務プロセスのうち定型化できるものは、それが何であろうと「ソフトウェアという機械」に「人間の知恵を付け」て、やらせることができる。ソフトウェアという機械を正しく設置するまでの「初期費用」はかかる。だがそれが済んだら、そこから先は「手間ゼロ、所要時間ゼロ、差分コストゼロ、間違いゼロ」でソフトウェアがやってくれるようになるのだ。 一番分かりやすい組織能力の拡張とは、「Excelバケツリレーの解消」である。 あなたの会社でも、毎月行われる「役員会」のテーブルには、前月の売上や利益などの「報告資料」が置かれるだろう。 各営業部門や工場が、売上高や出荷高をExcelの表にまとめて「上」に送る。上はそれをとりまとめたExcelの集計ファイルをさらに上に送り、それをさらに上がとりまとめ……という作業を、多くの管理部門が、毎月、毎日、行っているはずだ。 このバケツリレーという名の業務プロセスには時間がかかり、社員の手間がかかり、ということは人件費というコストを消費しており、そしてミスの可能性がある。 ところが、これが正しくソフトウェア化されるとどうなるか? 所要時間・手間・コスト・ミス、全てがゼロになる。どの数値をどれと合算あるいは変換して合計を出さねばならないか、は決まっている(もしそれ以外の計算をうっかりしてしまったら、それは全て「間違い」になる)、つまり定型作業だからだ。 単なる「集計」だけではない。例えば在庫の管理、生産量の管理、売り上げ・利益の管理、請求・入金の管理、購買管理、人事管理……あらゆる業務プロセスが、正しくソフトウェア化されると、それまでその部分の作業をやっていたホワイトカラー社員の手間(と所要時間とその分の人件費とミス)はゼロになり、従ってその社員はその分、他のことに手間と時間をかけられるようになる。 これが2000年前後以降に起きた「ホワイトカラーの生産性革命」の本当の正体である。定型業務をヒトから剥がして「デジタルな自働機械」、つまり人間の知恵を付けたソフトウェアにやらせるようになったのだ。 すると社員は、デジタルな自働機械という“ゲタ”が肩代わりしてくれる分だけ余力ができ、その分の脳力を非定型業務に振り向けることができる。仮にある社員の業務時間のうち定型業務の割合が50%だったとすると、その50%はまるまる浮くから、その社員の生産性は直ちに2倍になる。 この “ゲタ”の高さが高いほど、その業務に関わる社員全員に余力が生まれ、一方で定型業務は4ゼロで回るようになる。よって企業はこのゲタを整備し、さらにそれを少しずつ高めていくという競争に入っていった。