『ONE PIECE』ワノ国編から変化したアニメ作画 『THE ONE PIECE』や実写版の影響も
『ONE PIECE』が激しく動いている。『週刊少年ジャンプ』に連載中の尾田栄一郎による漫画が、エッグヘッドで驚きの事実を明らかにして次に進み始めた一方で、Netflixの実写ドラマも、シーズン2の配信に向けて盛り上がってきている。テレビアニメの方は、エッグヘッド編のめまぐるしい展開が続いているが、このタイミングで原作を最初から作り直す新作アニメ『THE ONE PIECE』が本格的に始動。それぞれが目指す“凄いアニメ”を見せようと頑張っている雰囲気が漂っている。 【写真】実写版『ONE PIECE』第2シーズンに登場する人物一覧 「空の玉座に座っている存在に驚くコブラ王は、語られる世界の真実に触れ、死を覚悟する」。9月15日放送のテレビアニメ『ONE PIECE』の第1119話は、予告のナレーションと「託された伝言(メッセージ)!コブラ王の覚悟」というサブタイトルが示しているように、物語の世界に大きく関わる状況が明らかにされ、アニメでシリーズを追っているファンに衝撃を与えそうだ。 「ワノ国編」から「エッグヘッド編」へと進んだアニメ『ONE PIECE』の作画は、荒々しさがあって劇画的なタッチになるところも見られた「ワノ国編」から少し変わって、全体的に描線が細くなり、グラフィカルな雰囲気になった。日本の江戸時代のようなワノ国と、科学技術の粋が集まったエッグヘッドを描き分けることで、観ている側にも舞台が移り変わり、そこで起こる出来事も不可思議なものになるのだろうと予感させる。 石谷恵が絵コンテ・演出を担当し、森佳祐が作画監督を務めた、ポップでアーティスティックな雰囲気の「エッグヘッド編」オープニングからも、切り替えていこうとしている意識が感じられる。ストーリーが進み、モンキー・D・ルフィと麦わらの一味がベガパンクと出会い、ユニークなテクノロジーやポップなファッションに触れて驚くワチャワチャとした展開が続く中で、「エッグヘッド編」ならではの空気感が醸成されていった。 こうした変化を見て「作画の魅力が薄れたのでは?」といった声も出た。ルフィが四皇の一角を占めるに至った「ワノ国編」の物語は、当時の四皇として新世界に君臨していたカイドウやビッグ・マムを相手にした凄まじいバトルが断続的に描かれて、『ONE PIECE』のテレビアニメでも屈指の迫力を見せた。ルフィが「ギア5」の技を覚醒させ、ニカとなった第1072話「ふざけた能力 ! 躍動するギア5」は、伝説的なアニメーターの大平晋也が参加して、凄まじい動きを描いたことで世界中のアニメファンから注目を集めた。 このシーンには、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』でゲゲ郎が裏鬼道の面々と激しいバトルを繰り広げるシーンをひとりで作画した太田晃博も参加しており、東映アニメーションのアニメ制作スタジオとしての力を満天下に見せつけた。これらと比べると、「エッグヘッド編」は荒々しさが後退しているように見えるが、一方でしっかりとした描線でキャラクターを描き、カートゥーンのような動きをつけて近未来感を表現しようとしたとも言える。シーンにあった絵を選んでいるということだ。 それでいて、「ワノ国編」なり劇場版なりに負けないバトルシーンをぶち込んでくるから面白い。松實航が演出を担当し、涂泳策と何紫薇が作画監督を務めた第1112話「激突!シャンクスVSユースタス・キッド」は、最悪の世代に名を連ねるユースタス・キッドが、こともあろうに四皇のシャンクスに挑むという展開で関心を引いた。そこで見せつけられたシャンクスの本気が爆ぜたような演出と作画は、モニター越しに視聴者を戦慄させた。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の太田晃博も参加したエピソードだけに、作画マニアは必見だ。 いずれにしても、テレビアニメ『ONE PIECE』が最近になって強く作画を意識するようになったことは確かだ。理由として取り沙汰されたのが、『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』といった凄まじい作画力でアクションシーンを見せるアニメの存在だ。これらを制作したMAPPAやufotable、『僕のヒーローアカデミア』シリーズでハイレベルのアクションを見せ続けるボンズなどが作画力を売りに作品をヒットさせ続けている。こうした流れに老舗の東映アニメーションも適応する必要があったのかもしれない。 日本でファンの子供たちに観続けてもらい、おもちゃを買ってもらい続けることを目的に立ち上げられることが多い日本のキッズアニメの一角に、始まった頃の『ONE PIECE』テレビアニメは立っていた。放送が始まって今年の10月で25周年。作品のネームバリューが高まり、観る人たちの世代も広がり、観られる場所も全世界になっている状況で、テレビアニメも子供から大人まで、それも世界中の人たちを相手にしなくてはならない。 そこに、『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』が高い作画力も含めて人気になっているなら、『ONE PIECE』としてもグレードアップをしていかなくてはならない。そうした意識もあって、作画力の底上げが図られていったのかもしれない。 テレビアニメ『ONE PIECE』はこの後も、ルフィの祖父のモンキー・D・ガープと青キジことクザンの激突が待っている。原作の漫画にすでに描かれた「エッグヘッド編」での麦わらの一味と海軍などとの大激突が、圧巻の作画で見られるはずだといった期待もある。東映アニメーションとしても応えざるを得ないだろう。 今はさらに、『進撃の巨人』『SPY×FAMILY』を手がけたWIT STUDIOが、原作漫画を最初からアニメで描き直す『THE ONE PIECE』が動き始めている。自分たちも頑張ろうといった意識に溢れていて当然だ。そしてWIT STUDIOの方も、先を行くテレビシリーズの頑張りを眺めつつ、自分たちなりの『ONE PIECE』を作っていこうと検討を続けている。 肥塚正史監督やキャラクターデザインと総作画監督を務める浅野恭司が参加したトーク映像によれば、『THE ONE PIECE』はルフィたちが暮らしている世界のバックグラウンドが、しっかりと想定されて世界観を濃密なものにしているようだ。(※)本格的な制作に向けて描かれたイメージボードには、市場に並ぶ魚や酒場で騒ぐ客たちが描かれ、誰かが生きて暮らしている世界なんだといった印象を持たせる。それがルフィやロロノア・ゾロやナミ、ウソップ、サンジといった面々に実在感を与え、より強い親近感を抱かせることになりそうだ。 テレビアニメ『ONE PIECE』が怒濤の展開に視聴者を巻き込んで進んでいくなら、『THE ONE PIECE』は作品の世界に観る人を引き込んでいろいろと体験させてくれそう。そうした2つのアニメに触れつつ、背景のディテールがとことんまで作り込まれたNetflixのドラマシリーズを観て、自分たちが生きている世界が『ONE PIECE』の世界と地続きになっているような感覚を味わう。すべての中心にあり先頭に立つ原作の漫画は次々に未知の扉を開いて読者を驚きへと誘う。 それぞれの『ONE PIECE』が作り出す空気が、宇宙を『ONE PIECE』で染め上げる。 ■参考 ※https://www.youtube.com/watch?v=uB6WQYbgQzQ
タニグチリウイチ