「予備自衛官化」構想で反発、戦時の船員の歴史とは? 神戸大博物館が展示
有事の際を想定し、フェリーなどに乗る民間船員を予備自衛官として活用する構想を防衛省が予算化したことに対し、船員で組織する労働組合「全日本海員組合」が反対声明を出すなど、波紋が広がっています。神戸大学海事博物館(神戸市東灘区)では、第二次大戦中に人や物資の輸送のため多くの船員が徴用され、命を落とした歴史を紹介する展示「大戦中の日本商船 船員の姿」を見ることができます。徴用船で殉職した船員は当時の日本人船員全体の約43%だったといい、戦時の厳しさと平和の大切さを考えさせられる企画になっています。 【動画】元ゼロ戦パイロット「戦争の罪悪で世界一、非人道的な人間に」
先の大戦で6万人超の船員が犠牲に
全日本海員組合のサイトなどによると、先の太平洋戦争では民間の船舶や船員の大半が軍事徴用され、物資輸送や兵員の輸送などに従事していました。そして1万5518隻の民間船舶が撃沈され、6万609人の船員が命を落としました。その中には14、15歳の少年船員もいました。犠牲者は軍人の死亡比率を大きく上回っています。 また日本近海などで偵察のため出て撃沈した漁船なども少なくないといい、殉職者はさらに多いという指摘もあります。民間船員が犠牲になったのは日本近海だけではありません。台湾やフィリピン近海をはじめ、マリアナ諸島、ニューギニアからインド洋まで幅広い海域に及びます。 海事博物館での展示は、戦後70年企画として同館が昨年7月から行ったもので、現在も入場無料で見学できます。博物館のある神戸大海事科学部のルーツは1920(大正9)年創設の官立神戸高等商船学校で、先の大戦では卒業生ら794人が殉職しました。
装甲も護衛も手薄だった民間商船
同展では殉職した卒業生の名簿が展示されているほか、日本の商船が沈められた場所を示した地図を紹介。また当時、大阪商船(現在は商船三井)の嘱託画家だった大久保一郎氏が、生きのびた船員から戦争の体験を聞き取り、沈没していく姿など商船の悲劇を描いた絵画画像10点や、当時航行していた商船の模型なども陳列されています。「卒業生やご遺族関係者、船舶会社などの協力を得て、貴重な資料が集まった」(同館)といいます。 同校の卒業生(1962年卒)は「当時の軍には物資を戦地に供給するロジスティクス(兵站補給)の重要性の認識が低く、装甲も護衛も手薄な日本の商船はひとたまりもなかっただろう。こうした体制が多くの犠牲者を出してしまった背景があるのではないか」と指摘しています。