オウム死刑執行 今も残る教義、今後の「教団」は?
今なお入信する信徒が多いのはなぜか?
この答えこそ、教団の欺瞞的体質を明確に示していると言えます。いわゆるリクルートの手法です。この点でオウム真理教は、アルカイダや「イスラム国」などの国際テロリスト集団の手法と同じような手口を使います。テロ組織はまず、モスクや学校、地域コミュニティなどで国家や社会に不満を持っている者、人生に目標が見出せないでいる若者、イスラムに興味を示す若者たちに目をつけ、言葉巧みに組織に誘い込んでいきます。 他方、オウム真理教の後継団体は、現在でも街頭でのヨガ教室や人生相談コーナーなどを通じて若者に接近し、親切に対応して信頼を得るなどしています。書店などでヨガの教本などを見ている若者にも声をかけ、「ヨガに興味があるなら私たちと一緒にやりましょう」と誘って教団の施設に誘い込むこともあります。その段階では、オウムであることを決して口外しません。これはテロリストのリクルート手法と全く同じです。
事件を知らない若い世代と記憶の風化
オウム真理教は「アレフ」と「ひかりの輪」に組織を分裂させ、さらに、主流派から小グループが分離したとも聞きますが、それぞれ組織名を変えて引き続き活動しているのも、オウムが無差別テロを行ったという歴然たる事実を隠ぺいし、世間の誹(そし)りを逃れるための術策とみなされています。事実、教団は「一連の事件は政府の陰謀だ」との詭弁を弄し、何も知らない新しい信徒に説明しています。教団は分派したものの、後継団体の信徒数は合わせて1600人以上いるとみられます。 地下鉄サリン事件から23年が経過し、若者世代を中心に、人々の記憶も次第に薄れてしまっているのかもしれませんが、私たちは、このような非道なテロが我が国でも実際に起きたことを忘れてはならないでしょう。
------------------------------------ ■安部川元伸(あべかわ・もとのぶ) 神奈川県出身。1975年上智大学卒業後、76年に公安調査庁に入庁。本庁勤務時代は、主に国際渉外業務と国際テロを担当し、9.11米国同時多発テロ、北海道洞爺湖サミットの情報収集・分析業務で陣頭指揮を執った。07年から国際調査企画官、公安調査管理官、調査第二部第二課長、東北公安調査局長を歴任し、13年3月定年退職。16年から日本大学教授。著書「国際テロリズム101問」(立花書房)、同改訂、同第二版、「国際テロリズムハンドブック」(立花書房)、「国際テロリズム その戦術と実態から抑止まで」(原書房)