大惨事を招くプロジェクトの「決定的な特徴」…組織が理解しなければならないたった一つのこと
大企業ではないからこそ、気をつけるべき
18か月後、プロジェクトはまだ完了にはほど遠い状態で、夫婦はすでに130万ドルもの金額を費やしていた。これはファットテール分布によく見られるコスト超過だ。そしてもちろん、これは異例でも何でもない。 大企業であればプロジェクトが暴走しても、借入を増やして対応できるかもしれない。政府なら債券発行や増税という手もある。 だが私たち一般人や中小企業は、莫大な富も持たず、債券発行や増税もできないから、プロジェクトがファットテールに突き進めば破綻するしかない。だからこそ、大企業幹部や政府高官などよりも、さらに真剣に危険を受け止める必要があるのだ。 そのためにはまず、プロジェクトが失敗する原因を理解しなくてはならない。 ◼️破滅の窓──「長い取り組み」が成功を蝕む 私のデータベースが明らかにしたパターンが、強力な手がかりになる。失敗するプロジェクトはズルズル長引きがちだが、成功するプロジェクトはスイスイ進んで完了する。 なぜだろう? プロジェクト期間を「開いた窓」と考えるとわかりやすい。期間が長くなればなるほど、窓は大きく開く。そして窓が大きく開けば開くほど、大きく邪悪なブラックスワンが窓から飛び込んできてトラブルを起こすリスクも増大する。 どんなものがブラックスワンになるのだろう? ほとんど何でもだ。たとえばそれは、選挙の番狂わせや株価大暴落、パンデミックなどの、衝撃的なできごとかもしれない。2020年1月に新型コロナが発生すると、2020年東京オリンピックから007映画「ノー・タイム・トゥ・ダイ」まで、世界中のあらゆるプロジェクトが遅延、延期、中止となった。 この種のできごとが1日やひと月、1年に起こる確率はきわめて低いかもしれない。だがプロジェクトの実施決定から完了までの期間が長くなればなるほど、確率は上がっていく。
プロジェクトの長さがブラックスワンに繋がる
これらの事例では、低確率だが恐ろしいブラックスワンそのものが、プロジェクトを大きく揺るがし、ブラックスワン的結果を招いた。つまり破滅の窓を割って飛び込んでくるブラックスワンそれ自体が、ブラックスワン的結果を生んだということだ。 だがプロジェクトを打ちのめし、葬り去るのは、なにもブラックスワンのような衝撃的事件だけとは限らない。ありふれたできごとがそうした結果を招くこともある。たとえば、将来有望な政治家の伝記が売れるかどうかは、刊行時にその政治家が活躍し続けているかどうかにかかっている。 ◼️めぐり合わせが悪ければ壊滅的な結果に これに水を差すできごとはいくらでもある。スキャンダルや落選、病気、死。政治に飽きて別の仕事に鞍替えするといった単純なことでさえ、プロジェクトを台無しにする。ここでもやはり、プロジェクトの実施決定から完了までの期間が長くなればなるほど、こうしたできごとが起こる確率は高くなる。ささいなできごとでも、めぐり合わせが悪ければ壊滅的な結果を招くことがあるのだ。 世界中の人々にとって、エジプトの砂漠の「突風」ほどありふれたできごともないだろう。だが2021年3月23日、スエズ運河の巨大コンテナ船エヴァーギヴンの船首に吹きつけて座礁を引き起こしたのは、まずい状況で起こった突風だった。 船は6日間も運河をふさぎ、数百隻の船舶の往来を遮断して、世界貿易に1日当たり100億ドルの損失をもたらし、世界中のサプライチェーンを震撼させた。サプライチェーンのトラブルに悩まされた人々やプロジェクトは気づかなかったかもしれないが、そもそもの原因は、遠い砂漠の突風だった。