『2度目のはなればなれ』オリバー・パーカー監督 キャラクターが生きている、名優2人の演技【Director’s Interview Vol.442】
キャラクターが生きている演技
Q:マイケル・ケインとグレンダ・ジャクソンは年齢的なこともあり、大きな動きの芝居はありませんが、表情や佇まいで魅せる演技が素晴らしかったです。お二人にはどのようなことを話して、撮影されたのでしょうか。 パーカー:まずマイケルですが、彼は決して冗長な方ではありません。とても率直で、物事がシンプルでクリーンであることを望まれます。そしてセリフが多いことは好みません。脚本の長いセリフの中から、どこをどう短くすれば良いのか、マイケルは必要な箇所がわかっているんです。その抽出する感覚は素晴らしかったですね。また、マイケルは自身がかつて兵隊だったこともあり、戦争の話をする際にはバーニーと同じように軽妙でウィットに富んだリアクションをするのですが、それは水面下の真実を避けているんです。撮影時は手術したばかりの時期で、歩けるのもやっとの状態でしたが、彼自身、このキャラクターに感じるものがあって演じてくださった。彼が持っている人間性や死生観も、役に反映してくれたと思います。 一方でグレンダはとても元気でした。エネルギーに溢れていてセリフも全て頭に入っている。キャラクターのことも熟知していて、演じるキャラクターのことを守っている感じすらありました。彼女はちょっと喧嘩越しな性格なので(笑)、私が色々と説明して「意味を分かってもらえましたか?」と聞くと「意味は分かるの、でも違うと思う!」と言われてしまったこともあります(笑)。自分を隠さずはっきりと意見を言うところは2人とも共通していましたね。また、グレンダが窓辺で外を眺めながら、若い頃の初めて愛し合った記憶を思い出すシーンでは、彼女の体から当時の情熱が湧き出るような美しい演技をしてくれました。二人とも本当に“キャラクターが生きている”演技だったので、邪魔をしてはいけないのではないかと、ときには一歩引いてしまうくらいでした。 Q:元軍人のアーサーが抱えるトラウマも心に強く刺さります。戦争は市井の人を苦しめることがより伝わってくるエピソードでしたが、彼を物語に入れた理由を教えてください。 パーカー:アーサーを演じたジョン・スタンディングは素晴らしい役者で、とても気さくな方ですが、英国的な謙虚さとエレガントさも持ち合わせている。マイケルとは元々友人ですが、二人はちょっと背景が違うんです。マイケルは映画スターですが、ワーキング・クラスのイメージが強い。一方でジョンは貴族階級出身。あえて違った背景の2人を掛け合わせてみました。それは劇中で2人が出会うシーンにも生かされています。実際の役でも、アーサーは空軍でバーナードは海軍、そして階級も違う。そんな2人の距離を縮めるのが戦場で経験したトラウマなんです。二人とも戦争の記憶を抑圧しているわけですが、彼らが出会い行動を共にすることで、つながりを持つことが出来て、心を動かされることになる。二人の旅路はすぐに終わっていまいますが、それは美しいものだったと思います。 監督:オリバー・パーカー 映画監督や脚本家になる前は、俳優や舞台演出家として幅広く活躍後、映画監督となった。1995年、ローレンス・フィッシュバーンとケネス・ブラナー主演作「オセロ」を自ら脚色して監督デビューを果たす。その後、ケイト・ブランシェット、ミニー・ドライヴァー、 ルパート・エヴェレット、ジュリアン・ムーア、ジェレミー・ノーサムが共演したオスカー・ワイルドの「理想の結婚」(99)はゴールデングローブ賞2部門、BAFTA賞3部 門のノミネートを獲得。他にもリース・ウィザースプーン、ジュディ・デンチ、ルパート・ エヴェレット、コリン・ファース出演作「アーネスト式プロポーズ(」02)などでメガホン をとっている。その他の監督作にはダニー・ヒューストン、クリストファー・ウォーケン主演で脚本も手掛けた「FADE TO BLACK」(0 6 )、ネーヴ・キャンベル、シャーリー・ヘンダーソン、アンナ・マックスウェル・マーティン主演作「I REALLY HATE MY JOB」(07)。バーナビー・トンプソンと共同製作&共同監督を務めた、ルパート・エヴェレット出演作「聖トリニアンズ女学院」シリーズ2作(07&09)、コリン・ファース、ベン・バーンズ、レベッカ・ホール主演作「ドリアン・グレイ」(09)などがある。ローワン・アトキンソン、ロザムンド・パイク、ジリアン・アンダーソン主演、ヘイミッシュ・マッコール脚本作「ジョニー・イングリッシュ気休めの報酬」(11)、トビー・ジョーンズ、マイケル・ガンボン、ビル・ナイ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ主演「ダッズアーミー」(14)などがある。17年にはロブ・ブライドン、ジェーン・ホロックス、ジム・カーターらが出演したコメ ディドラマ作「シンクロ・ダンディーズ」を手掛けた。テレビ作品では、スティーヴ・クーガン主演、ガイ・ジェンキン脚本作『THE PRIVATE LIFE OF SAMUEL PEPYS』(03)をはじめ、23年には、ニック・ホーンビィの小説 “ファニー・ガール”をジェマ・アータートン主演でドラマ化した『FUNNY WOMAN』の第1シリーズ全編を監督した。 取材・文:香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 『2度目のはなればなれ』 10月11日(金)全国ロードショー 配給:東和ピクチャーズ ©2023 Pathe Movies. ALL RIGHTS RESERVED.
香田史生
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