オリンピックはなぜ「平和の祭典」といわれるのか? パリ五輪でも採択された「休戦決議」の意義とは?【パリ五輪開幕直前!】
いよいよ夏季オリンピック・パリ大会が開幕する。フランスでの夏季開催は1924年以来100年ぶりの3回目、冬季を含めると1992年のアルベールビルオリンピック以来32年ぶり6回目となる。世界が注目するオリンピックだが、なぜ「平和の祭典」と呼ばれているのだろうか。 ■古代オリンピックの休戦協定に基づく平和への願い 近代オリンピックは1896年にギリシアで開かれたアテネ大会に始まるが、その起源を辿ると古代ギリシアで開催されていた「オリンピア祭典競技」に行きつく。いわゆる「古代オリンピック」だ。 オリンピア祭典競技は紀元前9世紀頃に始まったとされている。元々はギリシアを中心としたヘレニズム文化圏における宗教行事で、全知全能の神・ゼウスをはじめ多くの神々を崇め奉るためにギリシア全土から選手たちが集まった。競技だけでなく宗教的な儀式や詩の朗読、音楽の演奏会なども開催されるという、文化交流的な一面もあったと考えられている。 この祭典には選手だけでなく、各地から観客が押し寄せた。当時のギリシアは複数の都市国家(ポリス)が互いに争い合っている状態だったが、宗教的意義の大きいこの祭典の影響は大きく、戦いを中断してでも参加することが暗黙のルールとなっていたようである。これを「エンケケイリア(聖なる休戦)」という。 人々はそのシーズンになると休戦し、武器を捨て、普段敵対しているポリスの領土を通りながらオリンピアを目指す。それにはかなりの時間を要したことから、当初1ヶ月だった休戦期間が3ヶ月まで延びたというから驚きだ。それだけ古代ギリシアの人々にとって重要な行事だったことがわかる。 古代のこの慣習に倣って、国際オリンピック委員会(IOC)は1992年に「オリンピック休戦」を提唱。スポーツによる平和と選手の生命の尊重を掲げて、1994年にノルウェーで開催されたリレハンメル大会から導入されている。以降、大会ごとにオリンピック休戦に関して国連総会決議が採択・実施されてきた。休戦決議では、通常オリンピック開幕の7日前からパラリンピック閉幕の7日後までが休戦期間に設定されている。 今回のパリ大会においては、2023年11月、ニューヨークで開催された第78回国連総会で「スポーツとオリンピックの理想を通じて平和でよりよい世界を築く」と題した決議が採択された。これによって前述の慣例に従い、2024年7月19日から9月15日までがオリンピック休戦期間とされ、その遵守が呼びかけられている。 オリンピック憲章に記載されている「オリンピズムの根本原則」の第1項にはこう書かれている。「オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学である。オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである。その生き方は努力する喜び、良い模範であることの教育的価値、社会的な責任、さらに普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤とする」と。 そして続く第2項には「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」と、明確に平和な世界を築くためにスポーツを役立てることが目的であると定義されているのだ。 残念ながら、ロシア・ウクライナ戦争は泥沼化し、パレスチナ・イスラエル戦争も膠着状態。世界各地で戦争・紛争が絶えないなかパリオリンピックは幕を開ける。今こそ「平和の祭典」としてのオリンピックの歴史と意義を見つめ直したい。 <参考> ■公益財団法人日本オリンピック委員会 TEAM JAPAN「オリンピックの歴史」(https://www.joc.or.jp/olympism/history/) ■公益財団法人日本オリンピック委員会「オリンピック憲章」(2020年版)
歴史人編集部