世界で活躍するという気概を 東工大・三島学長が語る、英語スピーチの理由
4月4日に開かれた東京工業大学の入学式で、三島良直学長が新入生に対して英語でスピーチを行った。「英語だけが重要だというような式辞は軽率だ」「日本人ばかりなのに英語で話す必要はあったのか?」「英語ができないやつは学校に来るなということでは?」と、三島学長の真意とは別に、ネットではさまざまな意見が飛び交った。三島学長自身、日本人がほどんどを占める入学式での英語スピーチについて逡巡はあったという。それでも、実施に踏み切った狙いとは何だったのか。三島学長に話を聞いた。
伝えたいことが伝わるのか、という迷いも
─── 入学式のスピーチを英語で、と考えたのはいつでしょうか? 去年の暮れぐらいです。 ─── 英語による式辞に、どのようなメッセージが込められていたのでしょうか? 東工大は、世界のトップ10に入るような研究大学になるという目標を掲げています。そのために、教育の質自体を世界トップレベルの大学に見劣りしないものにする必要があり、4月から、学部と大学院の統一やカリキュラムの見直しを含めた大規模な教育改革を実施しています。 国際的な大学となるためには、自ら進んで学び、鍛錬する学生を育てる必要があります。大学で得た専門的な力を発揮する場は日本国内に限りませんし、国際的な社会問題を科学技術の力で解決するなら、海外の学者と英語でディスカッションする機会も出てくるでしょう。そのような国際的な舞台で活躍するためにここで学ぶ、という気概を持ってもらうには、英語でスピーチすべきだと考えました。 ─── 英語スピーチの実施に迷いはありませんでしたか? そもそも、留学生が9割を占める秋の入学式は英語でスピーチしていますので、日本人がほとんどの春の入学式でも、と以前から考えていましたが、日本人ばかりなのに英語を使う意味があるのか、伝えたいことが伝わるのか、という心配はありました。それでも、この4月は教育改革がスタートし、東工大が新しく生まれ変わるタイミングであることから踏み切りました。 ─── 一部では、英語だったのですんなり頭に入ってこなかったという新入生もいたようです。和訳も配られていたそうですが、日本語のようにすんなり伝えることができないということは想定内だったのでしょうか。 スピーチはできるだけ平易な英文にしました。難しい単語はできるだけ使わず、高校で学ぶ単語を極力用いたほか、ゆっくりかつ明確に話すよう努めました。高校で英語が得意だったり、海外での生活経験があり英語に慣れている人なら、かなり理解できたと思いますが、どれだけの入学生が理解できたかと言われれば、それは何とも言えません。和訳を配布したのはそのためですが、せめて英語を学ぶことの重要性が伝わればいいと考えています。 ─── 学生には伝えたい内容が伝わりましたか? それはわかりません。でも、ネットでは「何となくわかりました」という学生のコメントがあり、嬉しかったですね。NHKニュースでも「これからもっと英語を勉強しなきゃ」と話している学生を見ました。そう思ってくれたら大成功だと思います。