『マウンテンドクター』宮澤エマと大森南朋が抱く山への愛憎 登山ツアーに潜む落雷の恐怖
山を嫌いな玲(宮澤エマ)がMMTに所属する理由は?
極端なことを言えば、事故や遭難をなくそうとするなら山に登らなければいい。高額な入山料を設定し、一定の経験や技術を持った者以外の登山を禁止すれば、事故や遭難者は激減するだろう。そのことは現実的ではないという理由以外に、そもそも登山は自己責任で行うものという前提がある。止めたところで登りたい人間は登る。だからと言って、自身を省みず周囲に迷惑をかけることは許されない。自由の裏には責任があって、軽んじると手痛いしっぺ返しを受ける。 山を嫌いな玲はなぜMMTに所属しているのか。同じ疑問は江森(大森南朋)にも言える。江森は婚約者の美鈴を奪った山に復讐しようとしている。それは、山での事故や遭難をなくすことによってだ。玲の場合、7年前のショックから立ち直れていなかったのが、絵理子の落雷事故が過去と向き合うきっかけになった。 心底好きなものが自分を傷つけ、それゆえ余計に憎しみを募らせることは山に限らずあることだ。それは愛情の裏返しでもある。美鈴がくれた「山を嫌いにならないで」という言葉によって玲は過去と向き合い、自身が何をすべきかを見出した。結局のところ、愛すること、自分にとって大事なものを確認することでしか過去は乗り越えられないのかもしれない。 おそらく美鈴は亡くなっている。けれども、自身の目で確かめるまで江森がその事実を受け入れることはないだろう。自らを罰するように山野を行く江森の姿は、終わらない巡礼のように映って、肺腑をえぐった。
石河コウヘイ