ベネディクト・カンバーバッチが48歳に…“アベンジャーズ最強の魔術師”や“世界一有名な探偵”を快演の名優の軌跡
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の人気キャラクター、ドクター・ストレンジ役をはじめ、「SHERLOCK(シャーロック)」のシャーロック・ホームズ役など、多くの名作で印象に残る役を演じている俳優ベネディクト・カンバーバッチが、7月19日に48歳の誕生日を迎えた。そこで、これまでのキャリアにおける活躍と軌跡を振り返る。 【写真】おちゃめ!“指ハート”で日本のファンに笑顔を見せるベネディクト・カンバーバッチ ■両親が俳優というサラブレッド 1976年7月19日、イギリス・ロンドンのハマースミスで生まれた。父親のティモシー・カールトンと母親のワンダ・ヴェンサムは共に俳優で「SHERLOCK」にカメオ出演し共演している。マンチェスター大学、ロンドン音楽芸術学院で演劇をじっくりと学ぶ。舞台などの経験を積み、ドラマや映画にも出演して活動のフィールドを広げていった。 彼の活躍を語る上で欠かせないのは、2010年からスタートしたBBCのテレビドラマシリーズ「SHERLOCK」。アーサー・コナン・ドイルの小説「シャーロック・ホームズ」シリーズは推理小説の金字塔的作品。それを21世紀のイギリスに舞台を置き換えて、アップデートさせた名探偵シャーロック・ホームズを演じ、彼の名と存在を広く知らしめることとなった。シルクハットをかぶり、パイプをく揺らせるという感じではなく、類稀な推理力があることは変わりないが、スマートフォンやGPSなどの最新ITツールを駆使して難事件を解決していく。“社会不適合者”ともいえるほど個性が強く、相棒のワトソンを振り回しながら独自の道をゆくタイプ。偏屈だけどクセになるというか、その偏屈具合が気になってハマっていってしまう。 「SHERLOCK」での好演がきっかけで、スティーヴン・スピルバーグが当時まだハリウッドでは知名度が低かったカンバーバッチを映画「戦火の馬」(2011年)に起用。ここでもその高い演技力を発揮し、さらに活躍の場を広げることに成功した。スパイ小説で知られるジョン・ル・カレの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」が原作の「裏切りのサーカス」にも出演し、ゲイリー・オールドマンやコリン・ファースらと共演。トールキンの小説を映像化した「ホビット」シリーズ(「ホビット 思いがけない冒険」「ホビット 竜に奪われた王国」「ホビット 決戦のゆくえ」)は、「SHERLOCK」で相棒ワトソンを演じたマーティン・フリーマンが主演を務めているが、面白い形で共演を果たしている。カンバーバッチはこのシリーズで、邪竜スマウグ役で、声だけでなくモーションキャプチャーも担当。姿は見えなくても、その低音ボイスでしっかりと存在感を示している。 ■代表作の一つ「ドクター・ストレンジ」でMCU屈指の魔術師に シャーロック・ホームズと同じくらい、カンバーバッチにとって重要な役となったのが、“ドクター・ストレンジ”。天才外科医のスティーヴン・ストレンジは、交通事故に遭い、外科医として致命的な怪我を両手に負ってしまう。“神の手”を失うという絶望を経て、カトマンズで神秘的な力を操る指導者エンシェント・ワンに出会い、弟子入り。修行を経て生まれ変わって魔術師となり、世界を滅亡から救うため“闇の魔術”との戦いに巻き込まれていく。元々持っていた特別な能力ではなく、自分自身の努力で手に入れた力を持っている。それが「アベンジャーズ最強の魔術師」とも呼ばれるドクター・ストレンジの大きな魅力となっている。 2016年公開の「ドクター・ストレンジ」、2022年の「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」の他に、「マイティ・ソー バトルロイヤル」(2017年)、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)、さらには「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(2021年)といったMCU作品にドクター・ストレンジ役で出演。それもあり、カンバーバッチ=ドクター・ストレンジとセットで覚える日本ファンも多く、2023年に開催された「東京コミコン 2023」に初参加した際は、多くの日本人ファンとの交流を楽しんだ。 また、シリーズに連続で出演したわけではないが、J・J・エイブラムス監督による映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(2013年)もカンバーバッチにとって大きな意味をなす作品に。歴史の長い「スター・トレック」シリーズを、エイブラムス監督が完全リニューアルし、新しい「スター・トレック」になった第2弾作品で、カンバーバッチは大量殺戮兵器と化し、世界滅亡を企む謎の男ジョン・ハリソンを演じた。肉体改造に取り組んで臨んだ本作で、その悪役ぶりが高い評価を得て、演技の幅を広げることとなった。 ■モンテカルロ・テレビ祭の主演男優賞を受賞 カンバーバッチは、実在の人物をモデルにした役を演じることも多い。2004年、英国BBCで放送されたテレビ映画「ホーキング」では、難病のALSを患いながらも一般相対性理論と量子力学を統合する“量子重力論”を提示するなど、量子宇宙論という分野を形成させた理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士を演じた。この作品で、モンテカルロ・テレビ祭の男優賞を受賞している。 2014年の「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」では、第二次世界大戦中にナチスのエニグマ暗号機の解読に取り組んだ数学者で暗号研究者のアラン・チューリングを演じた。不遇な日々を送っていたチューリングは、友人クリストファーに教えられて暗号の世界にハマっていった。そしてイギリスがドイツに宣戦布告した年に、チューリングはナチスの暗号機エニグマを解読するチームの一員になる。天才ゆえに協調性を欠き、孤立しがちだったが、キーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラークが同僚との間に入って場をとりなし、結束力を固めることができた。自分の頭脳や考え方に自信があり、冗談が通じないタイプ。そういった孤高の天才を見事に演じ、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた他、タイム誌の「2014年俳優による演技トップ10」で第1位に輝いている。 2017年の「エジソンズ・ゲーム」は、発明家トーマス・エジソンの伝記映画で、電力の供給方法を巡って直流送電派のエジソンと交流送電派のジョージ・ウェスティングハウスの電流戦争の様子が描かれている。この作品でカンバーバッチはエジソンを演じた。この作品では主演を務めたほか、製作総指揮にも名を連ねている。 ■ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で銀獅子賞を受賞 2021年、「スパイダーマン」シリーズのヒロイン“MJ”ことメリー・ジェーン・ワトソン役でおなじみのキルスティン・ダンストとの共演作「パワー・オブ・ザ・ドッグ」もヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で銀獅子賞を受賞するなど、重要な作品の一つだが、同年公開の「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」も避けて通れない名作。この作品も人名がタイトルになっているが、ルイス・ウェインは19世紀末から20世紀にかけてのイギリス・ビクトリア時代の画家で、彼が描く擬人化された猫の絵は人気だった。夏目漱石の「吾輩は猫である」に登場する絵はがきの作者でもある。ウェインを演じたカンバーバッチは、作品は有名だがウェイン自身がどんな人物なのかはよく知らなかったという。演じたことでウェインの芸術的才能に魅力を感じたようだ。カンバーバッチ自身、絵を描くことが好きで、親近感を抱いたとも作品の公式サイトのインタビューで語っている。この作品も主演兼製作総指揮を担当した。 「エジソンズ・ゲーム」「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」で製作総指揮も務めているカンバーバッチ。他にも「クーリエ:最高機密の運び屋」(2020年)や「モーリタニアン 黒塗りの記録」(2021年)も製作に関わっており、近年は出演するだけでなく作品づくりにより深く携わる傾向にあるようだ。Netflixで配信されているドラマ「エリック」で主演を務め、怪演ぶりを発揮しているが、この作品も制作に彼の名前を見ることができる。 まだ正式発表はないが、「アベンジャーズ」シリーズ第5弾に出演するという話も聞こえてきた。48歳のカンバーバッチが、今後どんな名演を見せてくれるのか楽しみだ。 ◆文=田中隆信