星野リゾートはなぜ、ニューヨークに温泉旅館をつくるのか。「世界の星野」へ、日本文化で勝負
世界で通用するホテル運営会社になる──。1992年から掲げてきたビジョン達成に向け、星野リゾートが大きな一歩を踏み出した。 【全画像をみる】星野リゾートはなぜ、ニューヨークに温泉旅館をつくるのか。「世界の星野」へ、日本文化で勝負 2028年に、アメリカ・ニューヨーク州に「温泉旅館」を開業するというのだ。 「世界のホテル運営産業の中心地は北米。そこに拠点を持ち、足がかりをしっかり作っていくことは、20年後、30年後の星野リゾート(の経営)を考えるうえで大事だと思っている」 星野リゾート代表の星野佳路氏は10月17日、プレス向けのオンライン発表会でそう語った。
バブル期の失敗から導き出した「温泉旅館」
星野リゾートはかねてより、北米展開の準備を進めてきた。その“前哨戦”としてハワイ・ホノルルのホテルの運営権を取得、2020年に「サーフジャック ハワイ」として開業している。 サーフジャックハワイは1960年代の“レトロ・ハワイアン”がコンセプトの西洋型ホテルだが、今回はなぜ温泉旅館なのか。 背景には、星野氏自身がかつてアメリカの日系ホテルに勤務していた時に目の当たりにした日本のホテル産業の失敗がある。 「バブル経済時、日本は西洋型ホテルを北米に展開しようとしてうまくいかなかった。この失敗からの本当の学びは、日本がホテルで海外展開する際には日本文化を反映することが不可欠だということ。 (ホテル運営産業の中心地である北米で)『温泉旅館で行く』ということは私たちにとって非常に重要でした」(星野氏) 同社によると、日本のホテル会社によるアメリカでの温泉旅館開業は初となるという。
決め手は「日本のような四季」があること
候補地を3カ所に絞り、検討した結果、「最初の1軒目は、ニューヨーク州のシャロン・スプリングスに決定した」(星野氏)。 シャロン・スプリングスは、ニューヨーク・マンハッタン、ボストンからそれぞれ車で約3時間半の温泉地だ。かつてはアメリカ先住民が治癒効果を求めて鉱泉を利用していた土地で、1800年代中盤にはリゾート地として開発され、一時は非常に人気の高い観光地だったという。だが、1900年代に入って飛行機旅行が盛んになると同時に衰退していった。 もともと温泉資源が豊富だったことに加えて、シャロン・スプリングスに決めた最大の理由は「気候」だ。 「日本に非常に似た気候だったからです。冬には雪見露天風呂を作り、秋には紅葉、春は新緑、夏にはかき氷を出せる。つまり、二十四節気を踏襲したサービスを提供できるんですね。これは、北米に日本の温泉旅館第1号をつくるうえで非常に重要な要素だった」(星野氏) すでに土地を取得、新しく井戸を掘り直して豊富な湯量を確認。2028年の開業を目指し、すでに現地でスタッフの採用を始めているという。 「この温泉旅館に関しては、日本からの旅行者はターゲットにしていません。あくまで北米、特にニューヨークやボストンにお住いの方々が車で往復し、2~3泊する旅行(ニーズ)を狙っていきたい」(星野氏)
湯田陽子