大沢たかお「もがき続けた8年間でした」 『キングダム』王騎と歩んだ軌跡をたどる
■『キングダム』は俳優としても人生でも「特別な作品」
大沢:むしろこういうお仕事をもらえたことに感謝しているし、やるからには自分の俳優としての誇りをかけたいと思っていました。特に僕は2017年から準備を始めたので、8年間1つの仕事をぶっ通しでやってきたわけなんですね。自分の俳優のキャリアとしても、人生のキャリアとしても特別な作品だし、自分の限界以上のところで戦わないと、そういう誇りを持てる作品にはならないと思い、ずっと必死でした。 ――原作ファンの想像を超える「王騎」が評判になったからこそ、映画の大ヒットにもつながった気がします。王騎をつかんだと感じたのはどのあたりからだったのでしょうか。 大沢:つかんだ時はないですね。いつかつかみたいと思いながら、もがき続けた8年間でした。 ――原作を読んでいる時点では想像できなかった声・しゃべりが、映画を見て「これが正解なんだ」と思いました。 大沢:正解ってないんですよね。ただ、僕がやったことで、見た人がそういうものだとイメージを断定してしまう責任があるのが厄介で。「正解で良かった」で終われば良いけど、実際にはどうか分からない。だから、日々、現場でどういう選択が良いのか考えながら、やってきました。特に『キングダム』の現場はリハーサルをほとんどやらないんですよ。クライマックスもほとんど1発で合わせて、すぐ本番。10回も20回もやらせてくれたら悔いなく終われるけど、1回でほぼNGなしなんです。佐藤(信介)監督は、多少セリフを間違えてもOKにする監督なので、自分ではベストを尽くしているけど、 正解か不正解かはずっと分からないです。 ――リハーサルなく一発でやるからこそ、ああいう王騎になったと思うところもありますか。 大沢:自分ではなんとも言えないけど、他の役者さんやカメラ、照明、もちろん監督含めて、みんなが作ってくれた王騎だと思います。自分の考えた王騎を100倍豊かにしてくれたのはチームだし、他のキャストだと思いますから。 ――8年間を振り返ってどんなことを思い出しますか。 大沢:最初は、「漫画の実写で、しかも中国の歴史なんて当たるわけがない」といったノイズが聞こえてきたところからのスタートでした。シリーズなんて考えられなかったし、続編を撮れることになったら、今度はコロナという壁にぶつかり。中国ロケはできず、日本中のいろんな山や川や野原を見つけて撮影に行って、酷暑の中での撮影や、雪が降る中、裸みたいな格好で走ったこともありました。試練がずっと続いた8年で、ここまで辿り着いたのも奇跡だと思います。 ――コロナ禍で大量のエキストラを使って撮影されたシーンなど、圧巻でした。 大沢:コロナ禍では本番だけマスクを取って、撮影が終わるとみんなバラバラに帰り、コミュニケーションも取れない状態でした。それでも誰1人めげず、 絶対お客さんに喜んでもらうぞ、1作目より2作目、2作目より3作目へと高めていかなきゃ意味がないと、スタッフキャスト全員が思ってやってきました。ブレずに来られたのは、山崎くんのピュアな思いが土台にあったし、常に上を目指す監督やプロデューサーの思いがあってのことです。 ――では、王騎としてずっと共に走り続けてきた大沢たかおという役者に声をかけるとしたら、どんなことを言いますか。 大沢:どうだろう…もっとこうすれば良かった、ああすれば良かったしか思いつかない。やりきった思いもないし、その時々で自分にできること以上のことをやってきたつもりだけど。ただ、この作品を見てくれた人の心のどこかに、大将軍という人が住みついて、何かに苦戦した時、困難に立ち向かい続けるような力になれたら良いなと思います。 ※ホウ煖の「ホウ」は「まだれに龍」が正式表記 ※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記 (取材・文:田幸和歌子 写真:小川遼) 映画『キングダム 大将軍の帰還』は現在公開中。