能登半島地震の発生から半年。被災地での救助技術研修会に参加した消防士たちの志
知識や技術をアップデートして、組織全体の対応力を上げたい
続いて取材に応じてくれたのは、県外から足を運んだ消防士の皆さん。京都市消防局に勤務する植木(うえき)さん、北澤(きたざわ)さんに話を伺いました。 ――お2人がこの研修会に参加した理由を教えてください。 植木さん(以下、敬称略):能登半島地震が発生して半月ほど経過してから、被災地の土砂災害対応として派遣されたんです。でも、実際に倒壊した家屋を見た時に、「もしもいま、ここに要救助者が取り残されていたとしたら、自分に何ができるだろう」と考えてしまいました。 これまで震災に対する訓練も少なかったですし、自分の経験や知識だけでは対応できないなと痛感して。それを変えるためにも、こうして研修会に参加させていただきました。 北澤さん(以下、敬称略):私も一緒です。これから大きな地震が起こるだろうと言われている中で、自分が機材を使って救助活動ができるのかと問われると、うまくイメージできなかった。 だから今回、少しでも吸収できるものがあれば、と思って参加しました。 ――実際に参加してみて、いかがでしたか? 植木:機材の使い方ひとつとっても、いままでの自分のやり方に間違いがあったと理解できたのはよかったですね。 北澤:狭い社会の中で、先輩から教わったことをずっと正しいと思い込んできた部分があるんです。でも、こうして外部の研修会に参加したことで、常に技術もアップデートしていかなくてはけないことに気づくことができました。 植木:一度の研修会に参加しただけでは災害対応スキルも上がらないと思うので、今後も継続的に参加したい。加えて、今回は参加できなかった周囲の消防士にも知識を共有して、組織全体の対応力の向上に努めていきたいと思います。 北澤:継続的に知識や技術をインプットして、自分たちの組織にも還元する。それが人命を守る消防士として活動する中で重要だと感じています。
技術系ボランティアと消防士が連携することの大切さ
最後に、今回の研修会を主導したDRT-JAPANの加藤(かとう)さんにもお話を伺います。加藤さんは能登半島地震が発生してすぐ現地入りし、以降、支援の現場でリーダー的役割を担ってこられました。 ――今回、研修会を開いた理由を教えてください。 加藤さん(以下、敬称略):普段、DRT- JAPANの一員として災害ボランティアをしていて感じるんですが、現場の消防士さんの存在はとても大きいんです。同時に、消防士さんたちが自分たちのスキルを向上させたいという思いも伝わってきます。 だからこうして消防士の皆さんに向けた研修会を実施することによって、災害時に私たちと連携が取りやすくなれば、というのも目的の1つです。そうすれば支援活動の範囲も広がっていきますし、何より助けられる人命の数も増えていくと考えています。 ――加藤さんから見て、能登半島地震における支援課題はなんだと思いますか? 加藤:挙げれば切りがありませんが、強いて言えば消防士や自衛隊員の皆さんが使っている車両が大き過ぎることでしょうか。 大規模災害時には道路が寸断されたり、がれきが道に溢れてしまったりして、狭い道を通らざるを得ないことも多いんです。大型車両では入っていけないので、活動ができないという状況に陥ってしまう。 私たちが小型重機で道路を切り開いて、やっと消防士や自衛隊の皆さんが通れるようになったことも多々あったので、今後は車両の小型化も検討していく余地があるかと思います。 また、災害現場に来られる消防士さんたちからは、いつも高い士気や使命感のようなものを感じます。だから、皆さんの力をもっと生かせる環境を国や自治体で整えてあげてほしい、とも思います。例えばチェーンソーやジャッキといった機材を揃え、ちゃんと使えるように訓練するだけでも、災害現場は変わると思います。 ――そういったやる気のある消防士の皆さんを対象に研修会を行うことで、全体的な災害対応スキルの向上にもつながりますね。 加藤:消防士さんたちも日頃から訓練をされていますし、それを否定するつもりはありません。ただ、被災地で倒壊した家屋を使って実地訓練を行うことには、大きな意味があり、それが災害対応スキルを上げる最短の道だと思うんです。 それに、研修会で消防士さん同士が顔見知りになることで、災害時の連携しやすさも変わってくるはずです。現場で「あの研修会で会った人だ!」と思えば、安心感も生まれますよね。だから、日本全国でこうした機会をつくっていくことが重要だと考えています。 ――復興の現場から読者の皆さんに伝えたいこと、知ってもらいたいことはありますか? 加藤:避難所や仮設住宅で暮らしている被災地の皆さんの中には、これからもこの地で生きていくという覚悟を決めていらっしゃる方も多いんです。そういう方たちのために、私たち一人一人に何ができるのかを自分事として考えてもらいたいですね。 もちろん、1人でできることは限られてしまいます。でも、それぞれにきっと得意分野があるはずです。例えば、お話しすることが得意であれば、それだって被災地の役に立つ。被災地の皆さんを集めて何かイベントを開催すれば、それが大きな励みになって、心を明るくすることもできる。 復興支援は、そういった一人一人ができることの積み重ねだと思うんです。そのためにも、まずは人と人とがつながっていくことが大事。人が集まれば、何かできるかもしれない。それが足がかりとなって、被災地の皆さんの心の復興を早めていけたらいいな、と思います。
編集後記
1人でも多くの命を救いたい――救助技術研修会に参加した消防士の皆さんから、そういった強い思いを感じました。それは復興への希望であり、彼らの存在によって、私たちの安全が守られるということです。 一方で、彼らに頼るだけでなく、私たち一人一人も災害救助に対する基本的な知識を身につけておく必要性も感じます。「明日は我が身」という言葉があるように、地震大国でもある日本に暮らす私たちにとって、災害は決して他人事ではないのですから。
日本財団ジャーナル編集部