社説:高齢者の医療 安心見えぬ弥縫策では
超高齢社会の医療をどう支えるかに向き合わねば、誰にも訪れる老いの安心はおぼつかない。 政府は、75歳以上の医療費窓口負担が3割となる人の対象拡大に向けた検討を加速させる構えだ。 医療費の増大を抑えるため、中長期指針「高齢社会対策大綱」を6年ぶりに改定し、方針を明記した。 少子高齢化が進み、「敬老の日」に合わせて公表の人口推計で、65歳以上は3625万人と過去最多を更新し、総人口の3割に迫る。 高齢者の所得に応じた負担増で当面の医療財政を安定化する狙いという。 ただ一昨年に2割負担を設けて対象を広げたばかりで、一時しのぎ策を小出しにしている感が否めない。医療の安心網を持続させる抜本改革が求められる。 75歳以上の窓口負担は原則1割で、一定所得があれば2割(保険加入者の20%)、単身で年収383万円以上など「現役並み」なら3割(同7%)となっている。 大綱は、年齢で「支える側」と「支えられる側」を分けない社会像を掲げ、昨年末に決めた社会保障改革の工程表で「2028年度までに実施可否を協議する」とした3割負担拡大を方針化した。 最大の狙いが医療費増加への歯止めだ。23年度の概算は47兆円と3年連続で過去最大を更新した。全体の約4割を75歳以上が占める。窓口負担と税金、現役世代の保険料からの支援金で賄っているが、健康保険組合の運営難や保険料上昇が問題になっている。 ただ、年金の目減りや物価高は高齢者世帯も直撃している。負担に上限を設ける高額療養費制度はあるが、高齢になるほど医療費は多くかかる。 受診控えを招けば重症化と社会・経済の損失も広げかねない。影響に十分な目配りが欠かせない。 政府は、医療はじめ社会保障の歳出改革を「異次元」少子化対策や防衛費「倍増」の財源に掲げるが、見通しは立たないままだ。加えて少子化対策では医療保険料に「支援金」も上乗せされる。 一方、現在の自民、立憲民主の両党首選では現役世代の負担軽減には触れても財源の確保の裏付けは乏しい。早期の衆院選もにらみ国民負担増への反発を恐れてだろうが、繰り返す弥縫(びほう)策が将来不安を広げていることを直視すべきだ。 他に介護保険の利用料2割負担の拡大も議論の俎上(そじょう)に載せられている。社会保障に関わる給付と負担の全体像と将来展望を示し、持続可能な仕組みを論じたい。