中村俊輔の新たな挑戦「身近な相談相手の存在が大切」指導者としてメンタルケアを語る
中村俊輔の新たな挑戦「身近な相談相手の存在が大切」指導者としてメンタルケアを語る
スポーツ選手が感じるプレッシャーや精神的なストレスは、モチベーションの低下や不安感を招き、うつ病につながることもあると言われています。そのためスポーツ選手として大舞台で活躍し続け、常に高いパフォーマンスを発揮するためには、体調の管理だけでなくメンタルケアも大切です。そこで今回はスポーツ選手のメンタルケアについて中村俊輔さんと伊豫雅臣先生に対談していただきます。
中村俊輔の成功のカギ~高校時代から続けるルーティンとストレスの対処法~
伊豫先生: 中村さんが現役時代に行っていたメンタルトレーニングはありますか? 中村さん: 高校時代から続けているルーティンがあります。 伊豫先生: どのようなルーティンですか? 中村さん: 17歳のときに指導者にアドバイスされて書き始めたサッカーノートです。ノートに試合後の反省点や改善策を書き、練習、試合、そして反省点を書くというサイクルを繰り返すことが、メンタルの安定にもつながっていたのかなと思います。半年に一回の頻度で短期・中期・長期的な目標も書いていたのも良かったですね。 伊豫先生: 目標を言葉にすることは大事ですね。 中村さん: 当時は漠然とプロになると書いていました。ただ、書いたり直接言葉にしたりするうちに、自己暗示ではありませんが自然にその目標に向かっていく姿勢にもつながっていたと思います。 伊豫先生: 自分で立てた目標を達成するとうれしくて、次に向かう原動力にもなりますよね。 中村さん: 小さな成功体験が次のステップへと導いてくれました。 伊豫先生: ほかに何かルーティンはありましたか? 中村さん: 父親がビデオを撮るのが好きだったので、そのビデオを見返すことですね。 伊豫先生: 良いプレーは見ていて楽しいと思うのですが、悪いプレーを見るのはメンタル的にもきつくなかったですか? 中村さん: 性格かもしれないのですが、僕はうまくいかなかったプレーを見て改善する作業のほうが好きだったので、きつく感じたことはありませんでした。 伊豫先生: 中村さんの場合、海外チームへの移籍やケガ、日本代表選考、周囲の評価など、いろんなストレスがかかっていたと思うのですが、その中で精神的な不調を感じた経験はありますか? 中村さん: ストレスはもちろん感じていました。ただ、自分の中で改善策を考えられていたので、精神的な不調を感じたことはありません。 伊豫先生: ストレスに関してもプレーの修正と同じように対処されていたのですね。 中村さん: そうですね。あとはほかの人の対応を見たり、知らないことは聞きに行ったりすることで情報を得ていました。周りにアドバイスをくれる人や守ってくれる人がいたので助かりました。 伊豫先生: 相談相手がいることは重要ですね。 中村さん: あとは愚痴でストレスを発散していました。 伊豫先生: 愚痴もストレスへの対処に重要です。国際オリンピック委員会の報告によると一般人であれば精神疾患を抱えるのが約13%であるのに対して、オリンピックに出場するような選手は33%が不安障害やうつ病になると言われています。 中村さん: そんなに多いのですね。 伊豫先生: はい。加えて半数の人が睡眠障害になるとも言われていて、国際的にもアスリートが抱える精神的な負担について注目されています。不安になることはありましたか? 中村さん: ありました。 伊豫先生: そのような時はどう対処していたのでしょうか? 中村さん: 不安がなくなるよう練習量でカバーしていました。その分練習量が増えてしまうこともありました。 伊豫先生: なるほど。オーバートレーニング症候群や燃え尽き症候群になったことはありますか? 中村さん: 海外ではケガにつながるような過度なトレーニングは止められることが多いのですが、僕自身が足りないと感じた時は、誰もいない時間帯にトレーニングをしていました。 伊豫先生: ケガにはつながりませんでしたか? 中村さん: ケガにはつながりませんでしたが、疲労がたまっていました。 伊豫先生: どう対処されたのですか? 中村さん: トレーナーに相談して治療をしてもらいました。成長のためには自分の許容範囲を超える必要があると思っていたので、若い頃は試合に合わせず自分の足りない部分を鍛えていましたね。 伊豫先生: 頑張りたい時や自分の実力に不安がある際に練習し過ぎてしまう気持ちは分かります。そういう時に、体を管理するプロのトレーナーの存在は貴重でしたね。 中村さん: そうですね。相談できるトレーナーが近くにいたことで、オーバートレーニングの予防になっていたのだと感じます。