住宅密集地の建坪7.5坪でも「狭くない」家。都市の一戸建てを諦めたくなくなる!アイデアとプランに驚く建築家の自邸
キッチンもその一例。普通、最小限にコンパクトに計画しそうなところを、建物の幅いっぱいにカウンターを設置。 伸びやかなつくりは、「ここまでがキッチン」という領域を感じさせません。 料理好きな綾夏さんによっていつも整えられたキッチンは、リビングダイニングの美しい飾り棚のようにも見ます。 「狭小住宅では小さくて当たり前」と思われるスペースのスケール感を少しずつ拡張することで、家全体が大らかさを獲得しています。
天井高を低めに抑えたことによって視線が外へ抜け、広がりが感じられる
天井高は抑えめ。建物の高さ制限があるため低めに抑えざるをえない面もあったとはいえ、抑えたことによって視線と意識が自然と開口部へと導かれ、外の風景や光へと気持ちよく抜けてゆき、むしろ広がりが感じられる効果を生み出しています。 自分たちがテラスを通して小学校の校庭を借景にさせてもらうからには街並みに景観を提供しようと植えた木々。 「近くの公園には、東京と思えないくらいいろんな種類の野鳥がいるんです。我が家の木に止まりにくることもあるんですよ」
境目や角を消した空間に、光が柔らかなグラデーションを描きながら回る
壁・天井ともに珪藻土で仕上げたのは、漆喰や塗装といった他のさまざまな仕上げと比べていちばんマットで光の照り返しが少ないから。壁と天井の境目が消失しており、隅に意識が向かわず、穏やかな光に包まれる快さを感じる、落ち着きのある空間です。 さらに、空間のなかに角があると光が当たっている明るい部分と当たっていない陰の部分ができて明確なコントラストを描くところ、随所の角にRをつけたことによって光が柔らかなグラデーションを描きながら回り、空間の奥行きと広がりが生まれています。
塔のなかを、光と空気の流れと家族の気配が縦につなぐ、巡りのいい家
住宅密集地ゆえ開口部は決して多くないけれど、地階も含めてすべての部屋に自然光が入り、季節に応じて空気がうまく循環するようにつくられています。 塔のような縦長の建物のなかに、吹き抜けや回り階段による上下方向の奥行きをもたせ、「家の空間全体に、縦方向の流動感をもたせたかった」という青柳さん。 建具を使っておらず、家のなかに完全に分断しているスペースや個室はないため、家族が階段を上り下りする気配も感じられる。とはいえプライバシーも確保したい。 そのため各人が好きに上下階に分かれて過ごすこともできて「つながっていつつ、離れている」という距離感がちょうどいいのだそう。 借景を得ながら街並みに庭を呈する。 狭くしがちな部分をあえて広く取る。 吹き抜けや回り階段によって家中に光と空気が通り、家族の気配を伝える。 価値の交換や流れを生み環境と豊かにつながっている、巡りのいい家です。