1兆円の税金で「ゾンビ企業」を生み出す…国が進める「ヤバすぎる産業政策」の正体
187枚の「ポンチ絵」
結果としてJICによって税金を注入された企業は、本来、民間企業としては経営破綻しているのに、関わった官僚や政治家が失敗を認めないため、いつまでも税金で生かされる「ゾンビ企業」になる。ジャパンディスプレイがその典型だが、前回記事で取り上げたラピダスや今回のJSRも「親方日の丸」のモラルハザードに陥れば、早晩、ゾンビ化する恐れがある。 187枚のパワポからなる「半導体・デジタル産業戦略」は、よくできた資料である。半導体産業にまつわるあらゆることが、そつなく盛り込まれている。 だがこれは実際に部材を調達し、製品を量産し、それを販売したことのある人の文章ではない。事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員で、自らもベンチャー企業の経営に関わった経験を持つ渡瀬裕哉氏は言う。 「秀才が3年くらい勉強して作った資料です。霞が関全体のレベルが落ちているので、こうした全体観のあるパワポ資料をサッと作れる官僚は、経産省にしかいない。だから彼らが重宝がられるわけですが、ビジネス経験ゼロですから、その通りにやって、うまくいくはずがない。 彼らにとって大切なのは、最終的にプロジェクトがうまくいくかどうかではなく、大風呂敷を広げて予算を獲得することです。プロジェクトの結果が出る頃には他の部署で偉くなっていますから」 「経済安全保障」の御旗の下、国会でまともな議論もないまま、たかだか187枚のポンチ絵で、毎年何兆円もの税金が半導体に注がれる。我々は悪い夢でも見ているのだろうか。 「週刊現代」2024年6月22日号より さらに関連記事『99%が税金の半導体会社「ラピダス」はもはや国有企業…そのウラにある経産省の「思惑」』では、ラピダスの工場建設でバブルに沸く千歳市の様子をレポートしている。
大西 康之(ジャーナリスト)/週刊現代(講談社)